トレジャーハントの始まりだ

 「で!?ソイツは大丈夫なのかナァ!?」

 長身痩身が慌てた様に近付いて来るも、施術時にシェリー君の服に着いた返り血で慄き、立ち往生していた。

 まったく…………軽傷と言えど自身もそれなりに血だらけ。今更慄くようなものでもあるまい。

 シェリー君は後ろで寝ている猫背に目をやった。

 「火薬の量が少なかった事、大きな破片が多かった事、主要な臓器にその破片が食い込んでいなかった事が幸いして、大事は有りません。

 ただ、血は止まりましたが、流れ出た血の分、それなりに失血はしていますし、消毒も簡易的なもの。

 今すぐどうこうは成りませんが、これはあくまでも応急措置。なるべく早く、ちゃんとした治療をしないと、悪化する事になります。」

 香水を消毒に、針を焼きゴテにして血管を焼き塞ぐ。なんて手法、物資の限られる、100%死ぬ戦場で使われる様な、『まぁ死なない可能性が少しは有る』様な危なっかしい手法で、医学の教科書には先ず模範例としては載らない。

 火薬の量が少なく、重症と言っても辛うじて即死で無かったからこれが使えた。

 そう、火薬の量が少なかった所為で…………だ。

 「さて…………次は。」

 シェリー君が治療した猫背の服や手を調べ始めた。

 傷の状態を確認している訳では無い。あるものを探しているのだ。

 しかし、探していた物が無いと知ると、今度は爆発したゴーレム……の残骸が居た場所、爆心地へと近付いて行った。

 破片や爆心地の様子を見る限り相当に火力を矢張り弱めている。……な。

 『戦うだけ戦って、やられたら自爆して諸共に吹き飛ばす。』というだけの目的で爆薬を仕掛けるのであれば、思い切り吹き飛ばす必要が有る。この被害規模は不自然だ。

 この空間自体を吹き飛ばしたくないという理由で火薬を弱めたにしても、ゼロ距離で喰らった猫背以外に大事が無い被害しか及ぼせない辺り、弱過ぎる。

 かと言って、爆音を外や地上に漏らさない様に仕掛けたにしては火力が有り過ぎる。何せ壁一つ隔てたこちらに迄衝撃が届いていた程だ。

 この間抜けな理由を説明するのに『仕掛けた輩が愚かであった。』というのが最もらしい。だが、シェリー君は別の理由を考えている。

 「この近くに……有る筈なのですが…………。」

 そう言って爆心地を中心に螺旋状に歩いて行く。

 「これです。ありました!」

 飛び散った瓦礫の中に光るものを見つけた。

 それは、砕けた石の中で、異様な事に球体を保っていた。

 掌に収まらない、ボールの様な石の塊。

 表面を指でなぞると継ぎ目が有った。

 サリザリ

 継ぎ目に沿ってボールを回すと上下に分かれて中から鍵が出て来た。

 先端部分は槍の様な複雑な形状をし、逆の方は先程までの鍵同様に花の細工が施されていた。

 さぁ、爆薬の量を調整し損ねたのでないならば、何故ここまで中途半端な爆発を起こしたのか?その答えはこれ。この鍵を破壊しない様に、傷を付けない様にしていた訳だ。

 鍵の材質からして、広間一つを吹き飛ばしていれば曲がって使い物に成らない可能性はあっただろうが、この半端な規模なら、爆心地近くに有っても傷は無かっただろう。

 ん?頑丈な金庫にでも仕舞ってゴーレムの腹の中に仕込んでおけば良かった?

 あぁ、その方が確実だっただろうが、そうすると今度は勘の良い、私の様な人間にその場所を知られて爆発する前に鍵を奪われていただろう。


 で、問題だ。この鍵。他の場所にも似たようなものが有り、計5個。守る様に隠されていた。

 鍵とは本来、私の様な略奪者から価値有るものを守る為に作られた金庫や錠前を開けるために作られた物。

 何を言いたいかと言えば………






 「鍵が有るなら鍵で開けるものが有り、その中には価値有る物が少なくとも有る!

 さぁ、お宝探しの始まりだ!」

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