背中を預ける関係性

踏破した通路、4つ。

入手した鍵穴の見つからない鍵4つ。

今の所、ロクなものが無い。

シェリー君は若干疲弊気味。次の通路が最後かは解らない。

補給?そんなものは無い。御都合主義的にゴーレムが消化吸収が良い、栄養価の高いものをプレゼントしてくれるとでも?冗談だろう?相手は自分を害する気満々だ。毒杯をくれても塩を送ろう等と考える訳が無い。

授業中だった為に、シェリー君が持っていたのは学業に必要な教科書や筆記用具、それと特に私が魔改造を施していない最低限の小道具幾つか、教科書や筆記用具は当然この場には無い。

小道具に何か秘策が有る?

さっき使っていた石を括り付けた糸がその内の一つだと言えばどんな物が有るかは想像出来るだろう?

最低限、香水とソーイングセット、ハンカチと言った、取るに足らない物ばかり。

今まで使わなかったのはそう言う事だ。使い道が無い。どう考えても生死が懸かった場所に持っていくものでは無い。

それでも、他に道が無い以上、進まざるを得ない。

全く………実に論理的でない事を言うが、シェリー君にはどんな疫病神が憑りついているのかね?




「さぁて、さっきは俺達はずっと休ませてもらったしナァ…………シェリー嬢は見ておくと良いんじゃないかナァ?」

「そうだにー………。」

「ぬぅ…………そうだな。温存しておいた方が良い。

先程より、少し姿勢が揺らいでいる。疲れているだろう。」

「ねぇねぇねぇ、ただね、ちょっと不安だから何かが有れば言ってくれると嬉しいな………なんて。」

「そうじゃのー。嬢ちゃんが考えてくれた方が確実じゃしのー。」




誘拐犯と被誘拐者(人質)の関係性において、面白い現象が有る。

人質が誘拐犯に対して情を抱くという…………簡単に言えば誘拐犯に懐いてしまうという現象だ。

あぁ、ふざけていない。完全に真面目に話しているとも。

荒唐無稽に思えるが本当だ。

だが、今起きている光景はそんなものでは済まないレベルで荒唐無稽だろう。


夏休み、村人を操って賊を締め上げた事が在っただろう?

あの時は、以前からのシェリー君と村人との信頼関係が存在していたが故に容易く指示が出来たし、信頼もされていた。


対して今回は立て籠もり犯と人質の関係。信頼関係もへったくれも無い。ハハハハハハハ!信頼?有ってたまるかだとも!

それが如何だ?連携を取れていた事も可笑しかったが、人質を気遣い、背中を預ける関係性にまでなっている。

『犯罪者が被害者に情を抱いてどうするのかね?』と言うのがまぁ真っ当な反応であろうが、今回は被害者側であるが故に都合が良い。

と私は考えている。

もし、被害者が私であっても、彼らを同じ事をするだろう。

が、シェリー君は私には無い、正確には私に有る邪悪さ無く、同じ解答へと至った。







悪く無い。

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