どっこい罠が仕掛けられているのはそこでは無かった。

 大広間から伸びていた通路が、吊り天井の様に落ちて来た石材に全て塞がれる。

 同時に広間全体が大きく揺れ動き始めた。

 「何だに?なんだにー⁉」

 「ヌゥ……何かの罠に触れたか?」

 「そんな事は無かった筈なんだがナァ。」

 「警戒せい。何が起こるか解らんぞ。」

 「ねぇねぇねぇ、これって何が起きたの?」

 互いに背中を合わせながら警戒する5人。冷静に行動は出来ている。しかし、その声には明らかな動揺が有った。

 しかし、シェリー君程では無い。

 「⁉

 教授!一体何処に罠が?何時の間に⁉」

 割とパニックになっていた。

 「落ち着きたまえ。

 残念ながらこの罠は作動自体を回避するタイプの罠では無く、作動後に回避しなければならないタイプの罠だ。」

 「どういうことですか⁉」

 この罠が作動したのは今?違う。

 では、床全体が罠だった?これも違う。

 もっと前にこの罠は作動していた。

 そう、学長室の本棚を作動させた時点でこの罠は作動するようになっていた。

 本棚の仕掛けを作動させ、石の階段を降り、大広間に降りた頃に時間差で作動するタイプの仕掛けだ。

 警戒心の無い時に罠を仕掛け、まんまと嵌め、時間差で作動させる。

 まぁまぁ良い趣味をしている。

 対応策かね?本棚を破壊して如何にかする方法が無い訳でも無かったが、それは後々面倒な事になる挙句に、とある致命的な問題が起きる。

 (迷宮の罠を作動させる事が出来ない!)

 学長室の真下、そこには応接室が陣取り、生徒が出入りできない様になっていた。

 これが真下の階なら防犯で済むが、全ての階に成れば別の意味を考えられる。

 下の階、またはその下に繋がる為の通路が真下に伸びていると。

 そこまで考えれば迷宮擬きの期待は出来た。そして、迷宮を期待すれば罠も期待する。

 しかし、シェリー君がもし迷宮に来れば、真っ先に罠を回避するために、ワザと罠を踏もうとする私の動作を全力で妨害する。これは眼に見えていた。

 なので、シェリー君が警戒する前に仕掛けさせて貰った。正確には仕掛けている物を利用させて貰った。

 たとえ叡智を以て『ダンジョンや迷宮』に遭遇する事を予測出来ても、実際にそれを見る事はまた別なのだよ。

 と、言う訳で、私が罠を意図的に見過ごした結果、今まさに、シェリー君達は窮地に陥ろうとしていた。

 (ダメだよシェリー君。君に叡智を授けたのは私。そして、私は何処までも邪悪なのだから。油断すれば凄まじい事が起きるし、放って置いたら何かやらかす!

 マーコレモ、シェリークンガオオキクセイチョウスルタメノカテダ。ワタシハソレモミコシテアエテキミヲオトシイレテイルトモ!)








 この作品の黒幕は何処までいっても教授である。

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