ゴーレム

 石の大広間の壁。

 レンガの様に隙間無く積まれている筈の石材が、大きな音を立ててジェンガの様に飛び出して来た。

 石材が重力を無視して綿埃の様に浮き上がっている。そして、面倒な事に……それは一定の法則に基づいて作動していた。

 私の知識の中に、この光景に関する記憶は無い。

 予測は可能。そしてそれに関しては自信が有るが、さぁ、シェリー君は如何様に?

 「迂闊でした。」

 歯を喰い縛って構える。

 心臓が凄まじい勢いで、打ち付けられる様に音が鳴る。

 幾つもの石材が規則的に動き出し、何かの形を成していく。

 「気を付けたまえシェリー君。」

 「…………承知しました。」

 背中合わせで6人が警戒する中、人の形に石が組み上がっていった。

 しかも、6人を取り囲むように。

 「囲まれましたね………。」

 「これは………ナァ。」

 「不味いにー。」

 「ヌゥ、石人形……か?」

 「ねぇねぇねぇ、石人形って何?」

 「フーム…………石で出来た操り人形。ゴーレムってところかのー。」

 そう、石人形ゴーレム

 『複数の石や土を魔法によって結合し、望みの形を作り出して忠実な下僕を作り出す技術。』だそうだ。

 学園の図書館にゴーレムに関する資料が幾つも有った。

 『石や土を材料に、ある程度複雑な命令を聞かせる事が出来る兵隊を作り出す事が出来る。

 破壊されても犠牲は0。材料はそこらの石で、保存がある程度出来るが故に、時間が有れば一人でも強力な兵隊軍団が作れる。』という笑えない兵器の作り方をよくもまぁ女学生の出入りする図書館に置いておいたものだ。

 確かに、網羅的に本を集めるという点において図書館の役目は果たしているが、倫理的に問題では無いのだろうか?

 まぁ、そのお陰でこの状況に対応出来る訳だがね。皮肉にも。

 「手伝う必要性は有るかね?」

 シェリー君に問い掛けるも、良い表情で力強く首を横に振った。

 「いえ!これならば私達だけで問題有りません。

 教授は何かあった時のフォローをお願いします!」

 フォロー………か。んー……!いかにもな迷宮で、人の大きさの石人形を幾人も相手にしての大立回りが出来ないのは残念では有るが、仕方ない。

 後程、シェリー君に山程ダンジョンに潜って貰おうか。


 「行きます!皆さん、不味くなったら呼んで下さい!」

 シェリー君が石人形に素手のまま突っ込んでいった。

 「馬鹿にすんナァ。」

 「流石に、子どもの前で大人がみっともない真似出来る訳無いからにー。」

 「ヌゥ……本職を見せてやろう。」

 「ねぇねぇねぇ、僕だって結構魔法使えるんだからね?」

 「嬢ちゃんこそ、気を付けt」

 ズガン!

 「のー」

 小柄な肥満の男が喋る間に、シェリー君の正拳が石人形を一体砕いた。

 皆が目を丸くしながら絶句していた。

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