家探し5

 シェリー君が手を伸ばしたのは本棚では無く、事務机の上に散らかっていた一冊だった。

 先ほど見たこの学園の歴史書の第7巻。題名を改めて確認すると『アールブルー学園の歴史(7)』だった。

 「…………。」

 本棚にそれを持っていく。


 手元の本の題名は、『アールブルー学園の歴史(7)』

 本棚の上段の端にある本の題名は、『アールブルー学園の歴史(7)』

 同じ本が二つあった。

 「これ、間違えて二冊買ったという事は………無いですよね。」

 本棚の方の本を引き抜こうとして、何かに引っ掛かった。

 「これ、本物の本じゃありません!本棚に完全に固定されています。」

 そう言いながら他の本を退かして本棚の上端の本………否、本に偽装した何かを観察する。

 カンカンカン

 「皆さん、ちょっとこれを見て下さい。どうもコレ、本の形に見せかけて本と完全に一体になっている様なのですが………。」

 立て籠もり犯5人がシェリー君に駆け寄って来る。

 「コイツは、何も無いって事は、無いかナァ?」

 「悪戯の為って訳じゃ………無いかにー。」

 「ヌゥ、何か暗号が書かれているのでは?」

 「ねぇねぇねぇ、何かボタンみたいなのとか無い?」

 「うーん…………見た所、何もー仕掛けみたいなのは、無いのー?」

 6人で食い入る様に見る。

 偽者の本の表面は一見すると滑らかで、木製。表紙と背表紙は本物の『アールブルー学園の歴史(7)』そのもの。

 軽く指で叩くとカンカンと乾いた響きの音がする。中は空洞。ないしは何かの機構が組み込まれている可能性が高い。

 「ヌゥ、いっそ叩き壊すか?」

 中肉中背が棍を振り回して偽本に狙いを定める。

 「止めて下さい。中身が何なのか解らない状態で下手に壊せば取り返しがつかなくなります。」

 十分観察したシェリー君が何かに気付いた。

 「この……背表紙部分、少し繋ぎ目が有りませんか?」

 食い入るように見て、一点を指し示す。背表紙上部分、指でなぞると辛うじて長方形の木片が嵌め込んであるのが解る。

 押しても動かない。かといって引き出す事は出来ない。

 「あー…………シェリー君?この本棚、少しいびつな所が幾つか無かったかね?

 私なら、こんな実用性の無い本棚。先ずは少し本棚の中・・・・・・の埃を拭った後で使い易いように整理しなおすがね。」

 その言葉を聞いたシェリー君が本を退かした何もない本棚の底板や奥の方の板に手を伸ばして撫でたり叩いたりし始めた。

 「何を、」「して、」「いる」「のか」「ナァ?」

 5人から見た奇行を終えると今度はこう言った。

 「皆さん、本を仕舞うのを手伝って頂けませんか?」

5人はポカンと口を開けた。

 そんな5人を余所にシェリー君は本を本棚に収め始めた。

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