家探し4
「この段には有りませんか……。」
少し肩を落としながらシェリー君が言った。
「残念だと慰めたいのは山々だが、あまり時間もない。
次に行ってみようか?」
「解っています。」
そう言いながら中段の本を取り出しにかかる。
どうやら本棚の幅ギリギリに、半ば本を圧縮する形で詰め込んであるらしい。
本来、本棚から本を取り出す時には、本の側面、本と本の間に指を入れて掴み、引き抜くのがベストな方法である。
ちなみに、背表紙の上を指で引っ掻けるのは背表紙を傷めるのでやらないこと。
本棚は基本的に9割の状態を心掛けると良い。
しかし、この、半ば圧縮状態の本の間には隙間など無い。
十割どころか圧縮されて十割五厘状態だ。
「次は、中々立派な、書籍 です……ねッ! ふぅー……」
難儀しながら引き抜こうとして、ビクともせず、息をつく。
仕方がないので背表紙に指を掛けようとするも、棚の高さと本の高さがほぼ同じな為に、背表紙にも指が全くと言っていい程引っ掛からない。
「あと、少し………」
ザッ! ヒュォ。
力技で無理矢理本を引き摺り出し、本がやっとの事で本棚から飛び出した。
引き出した時、背表紙の上部分の隙間から本棚の方へと空気が入って独特の音が鳴る。
そうして引き出した、シェリー君の顔より大きな、下手な辞書よりも分厚いその本の表紙にはこう書いてあった。
『アリベリア歴史大全(1)』
「これは………歴史の本ですね。しかも、王国の司書団が作っている、この国の公式の歴史書です。」
この国の歴史書か……為政者の歴史書は脚色隠蔽が酷い。気を付けて読まねばならない。
もし、その脚色隠蔽をそのまま数式に組み込んでしまえば根底から間違いを犯す可能性が有る。
「これには何も有りませんね。」
歴史書を一冊、読み終えた所でシェリー君が呟いた。
「次は……『アリベリア歴史大全(2)』ですね。」
そう言ってシェリー君は一冊目を事務机に置いて二冊目に取り掛かる。
内容は一見すると歴史書というよりも御伽噺やベッドタイムストーリーに近いモノに見える。
『昔、人の活力を喰らう悪魔がこの国に現れて悪さをした。
勇者に倒されて二重の封印を施されて封印された。』
『地獄と繋がる湖がこの国には有り、近付く者は魂を吸われ、時に湖は地獄の炎に呑まれる。』
『夜中外を歩いていると吸血鬼に血を吸われて仲間にされる。』
『世界の危機には世界を飛び越えて勇者が現れ、人智を超えた力で人々を救ってくれる。』
これも一通り読み終えて細工の無いのを確認した後、次の本を引っ張り出す。
下段の冊子は全て確認済み、中段の本も厚さが厚さなだけあって中々思い通り進んでいない様だが、私は決して慌ててはいない。
シェリー君に期待しているから?
違う、シェリー君は必ず気付き、私の力無しにこの状況を打破すると私は知っている。
「歴史書は、この5冊で御仕舞ですかね?」
5冊の本を探したところで訝しげに首を傾げる。
『アリベリア歴史大全(1)』
『アリベリア歴史大全(2)』
『アリベリア歴史大全(5)』
『アリベリア歴史大全(9)』
『アリベリア歴史大全(13)』
巻数が飛び飛び。
内容に統一性が無い、割符の様に機能する訳でも無さそう。数字にも規則性が無い。
「皆さん!この棚から本を取り出していませんよね?」
本があれだけミッシリと詰まっていた状況からして、おそらく棚から出してさえ居ないだろうが、一応の確認を取る。
ブンブンブンブンブン
5人共否定する。
探したと言っていたのは何の冗談かね?全く……。
「つまり、当然これで全部と……。」
更に首を傾げる。
本棚に並んでいる他の本にも視線を移し、首を傾げる。
『アールブルー学園の歴史(2)』
『アールブルー学園の歴史(3)』
『アールブルー学園の歴史(7)』
『アールブルー学園の歴史(9)』
『アールブルー学園の歴史(11)』
『アールブルー学園の歴史(13)』
『アリベリア生息のモンスターの生態(3)』
『アリベリア生息のモンスターの生態(9)』
『アリベリア生息のモンスターの生態(16)』
「?」
ある一冊を手に取った。
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