狂気

 中々に重いので、読むのであれば、気を付けて読んで下さい。

 少し不味そうでしたらブラウザバックを推奨します。

 この話を飛ばしたら飛ばしたで次回前書きにザックリしたダイジェストを用意しておきます。



















 目が既に死んだ5人の男達が余りの予想外の出来事で思わず顔を上げて、目を真ん丸にしてシェリー君を見た。

 「立ちなさい。」

 血液を一滴残らず凍らせる様な冷たさは無い。

 かと言って、シェリー君には珍しく、優しさは無い。

 有無を言わせず、それ以外の選択肢等無いと暗に宣言する様に、言葉の根底には力強さが有った。

 「貴方達は搾取されました。苦しめられました。苛められました。酷い目に遭いました。

 だから・・・。立ちなさい。」

 5人は信じられない異形のものでも見るかのようにシェリー君を見る。

 シェリー君はそれに対して揺らがない信念を象徴する眼で返した。

 「確かに、この国や世界では生まれがそのまま生き方を強制します。

 私達は搾取され、踏みにじられ、疎まれ、苦しみ悶える。

 生き方を選ぶのは確かに難しいです。

 そう簡単に底辺から這い上がる事は出来ません。不可能に見えます。」

 まぁ、こうして這い上がろうとして、今まさに、頂上見えない断崖絶壁を這い上がっている少女が居るがね。

 「ですが、貴方達がたとえ生き方を誰かに強制されたとしても、選択肢が無くても、未だ貴方達には『死に方の選択肢』が有ります。選ぶ権利が有ります。

 望まぬ生き方が出来なくても、死に方・・・は選べる。」

 少女の口から紡がれる言葉に男達は微動だに出来ない。


 『死に方を選ぶ。』


 シェリー君のたかが20年とない人生。しかし、予想外の変数が無ければ一度は死んだ人生。

 その言葉には確実な重さが有った。

 「死を待つ事が貴方達の望みだというのであれば私は止めません。

 しかし、本当にそれが貴方達の望みですか?本当に貴方達は騙され、虐げられ、死んでいく終わり方を望んでいるのですか?

 騙され、良い様に使われ、殺される。貴方達を騙した人間は貴方達が死ぬ事で当然泣きはしません。しかし、喜びもしません!

 貴方達の死は当然の事として、道具が壊れたという程度の思いさえ無いでしょう。

 貴方達の死がもたらすのは騙した人の利益のみ。

 貴方達が冥府の底で業火に焼かれて悶え苦しみ、怨嗟や呪いの言葉さえも焼かれる中、その人は貴方達の事などなんとも思わず、目論見通りになった事を嗤っているでしょう。

 問います。それでもあなたは死にますか?

 貴方の死を何とも思わない輩の為に、貴方は自分のたった一つの命を棄てますか?

 このまま死んでも貴方達は罪人として嗤われ、虐げられ、断罪され、石を投げられ、侮蔑の目を向けられ、無意味に死にます。

 貴方の死を何とも思わない輩の為に。」

 誰もそれに対して言葉を返そうとしない。

 「私はそんな生き方は嫌です。

 私は胸を張り、自分の為に死んでいきたい。

 他の誰の為でも無く、己が為に自分の命を燃やし尽くしたい!

 自分を陥れようとする人間の為に、自分の死を望む者の為に死ぬなど絶対に、絶対に在ってなるものですか!」

 その言葉には少しの迷いも無い。

 「再度、貴方達に問いましょう。

 騙した輩の目論見通り、黙って狙撃手に殺されて人生を終えますか?

 それとも、騙した輩の目論見通り、騎士達に縄を貰い、大人しく裁かれて首を吊りますか?

 それとも…………………………」

 それ迄死んでいた男達の目が息を吹き返す。

 その目の奥は確実に燃えていた。

「貴方達を騙して良い様に使い捨てようとした輩の目論見を完膚無きまでに叩き潰し、冥府の底に叩き落しますか?」

 シェリー君が何時に無く私側こちらに居る。

 男達の目の奥が燃えて気付いていないから良いものを。

 その眼には私の喪われた記憶の中に有る、喪われて知らない筈だが知っている何かを想起させた。





 その名は、『狂気』だ。





 「良いぜ、冥土の土産だ、最期まで足掻いてやろうじゃ無いか!ナァ⁉」

 「そうだニー………思い通りにされて死ぬよりかは……………そっちの方が良いか………。」

 「ヌゥ、悪足掻き………か。悪くない。」

 「ねぇねぇねぇ、どうせなら、思いっ切りやってやろう!」

 「気に入らん奴の掌の上。というのは、気に喰わんのー……。」



 シェリー君がそれに対して応えた。

 「では、参りましょうか?」

 全員の意志は一致した。



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