添削2


 「しかし、しかし!こうしている間にも他の教室を占拠した犯人が生徒を手に、いえ、この教室の生徒だって危険……」

 シェリー君はそれでも引き下がらない。

 命の危機。確かに、この状況を一瞥しただけでは多くの人命が懸かっている様にも見える。

 全く、シェリー君は、この状況でも『自分の命』だけでなく、『全ての命』を心配するとは……慈悲深いと言うか、凄まじい善性と言うか。

 だが、シェリー君の心配は杞憂だ。

 「それは無い。

 冷静に考えたまえ。他のクラスも同じ状況なら騒ぎの二三起きてもおかしくは無い。

 しかし、先程から外に耳をそばだてても外や周囲は静かなもの。

 立て籠もっているのはこの学園というより、この教室。と言った感じだろう。

 そして、命の心配は不要だ。

 『この場所が貴族令嬢御用達の学園である』という人質の価値を保証する要素が同時に、『下手に危害を加えたら国単位で自分達を潰しに来る』という牽制にもなっている。

 向うも馬鹿では無いから死にはしない。

危害を加えない根拠としては、先程の対応だ。

 逃げ出そうとした人間を、あの杖で牽制こそしても攻撃しなかった。

 私が籠城するなら、反乱や逃亡の可能性の有る人間は生かしておかない。

 それをわざわざ引き留めたというのは殺す気が無かった。否、あの杖では殺せなかっただけだ。」

 「殺せない?」

 首を傾げるシェリー君。

 「目線だけ、少し上に向けたまえ。

 丁度、さっきあの杖を使った時に、杖の先端を向けた方向をだ。」

 そう言ってシェリー君は慎重に目線を上にして、気付いたらしい。

 「!天井に傷一つ有りません!」

 先程、あれだけの破裂音と煙を吹いておきながら、その殺傷性を示す証拠が天井に一つも残っていない。

 可能性として天井には傷を付けずに人体だけ破壊する私の知らない魔法の類が有る可能性は否定できないが、さきの逃亡の可能性の有る人間を見せしめに始末しなかったことを統合すればそれは否定される。

 「要は、ここでジッとしていれば直に身代金がどこかの貴族から払われて私達は解放される。

 今、わざわざ事を荒立て、シェリー君がリスクを負う必要性は無い。

 もし、不測の事態が起きた場合、命の危機にさらされた時、どうしようもなくなったその時は、シェリー君のプランを使おう。」

 まぁ、そんな不測の事態、起きたら起きたで、私が出張って解決してしまえばいい。

 生憎、素人集団相手に遅れを取るほどこのジェームズ=モリアーティーは耄碌もうろくしていないからねぇ。

 あの五人を始末する事は何時だって出来るとも。

 「そう………ですね。

 私が失敗する可能性も万一が有ります。

 ならば、そちらの方が危険も少ないですし……………解りました。

 敢えて今は何もせずにしておきましょう。」

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