添削1



「ッ!何故です?

今のプランならば他の人質を危険に曝さずに制圧が出来ますよね?」

私から不合格を貰ってシェリー君の顔色が変わった。

自信は有っただろうし、制圧だけ考えるならばこれはシェリー君が今出来る最適解だろう。確かに、私も立て籠もり犯を倒す為だけなら同じような手を使う。が。

「大勢の目の前でそんな事をして手の内を曝して目を付けられる気かね?」

「ッ!」

シェリー君が言葉に詰まった。

そう、目撃者多数。

集団幻覚や目撃者が全滅しない限り、今の制圧プランは教室の全員に見られてしまう。

この状況。衆人環視の最中で立て籠り犯を制圧すれば、後々面倒な事になりかねない。

「この学園の連中がお礼なんてする訳が無く、どころか他の目撃者と共謀して陥れられる可能性さえ存在する。

最悪、今までの、前期のあれこれを訝しく思って蒸し返す輩も出てきかねない。」

このプランがもし、夏休みの間に起こったなら、学園の外で学園関係者が居ない状況で行うなら、構わなかった。

最適解として合格を上げられた。

しかし、夏休みのあれこれとこの伏魔殿のあれこれは根本的に対処すべき最重要要素と解決の方法が違う。

夏休みは『賊を撃退する事』・『死人を出さない事』が最重要要素にして目的だった。

人払いの甲斐有って村人にはシェリー君が何をしたかは見られず、目撃者たる賊は幻覚を見せて錯乱させて撃退したので、荒唐無稽な証言しか出来ず、事実上信じられるような、まともな目撃証言は0になった。

 端的に言って、割と雑に計画を実行したとしても問題は無かった訳だ。


 しかし、この伏魔殿では雑にやる事が即命取りになる。

 下手な目撃者や証拠を残せばあっという間に周囲の人間が口裏を合わせてシェリー君を陥れてゲームオーバー。

 たとえ立て籠もり犯に勝っても総合的に負けになっては本末転倒だ。

 そう、この学園内で最も重要になる要素は『死人を出さない事』と『最低でもシェリー君の行ったことが学園の人間に悟られずに事を収束させる事』だ。

 「少し待ちたまえ。

 ここで暴れては君の努力が水泡と化す。」

 完全犯罪において何よりも大事な事。それは耐える事だ。

 最適な環境が揃うまでの時間を耐え忍ぶ事、容疑を向けられるかもしれないという恐怖に耐える事、実行するまでの間何が有っても耐える事。

 何よりもそれが大事だ。

 「『急いては事を仕損じる。』という言葉が私の居た場所には在った。

 意味は、『結果を急ぎ、慌てて行動を起こすと失敗したり、上手くいかなかったりする事があるから、急いでいる時こそ落ち着け。』という事だ。

 やるならば、確実に、証拠一つ残さずに事を行う。それが最適だ。」

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