新校舎の設備2

 「先ず、セキュリティー強化に伴い、敷地内外への行き来は以前より厳しくなります。

 振動センサーと加圧センサーを柵に導入し、柵の高さを5mにしましたので、無断で学外に出よう・飛び越えよう等とは考えませんように。」

 成程。下手に柵をよじ登って脱出しようとすればその揺れと圧力でバレる。

 しかも、二つのセンサーを併用する事で風や雨といった自然現象による装置の誤作動も防げる。

 厄介な事この上無い。

 「で、シェリー君は脱出するならどうするかね?」

 厄介なのは真実だが、幾つか手法が存在する。

「………そうですね…………例えば、『凧の様なもので滑空して飛び越える』というのは如何でしょうか?

如何やら宿舎の部屋の階や番号自体は変わらないようですし、黒く塗れば夜間に………あっ、でもそれだと帰る時に問題が起きますね。

ならば『敷地内の死角部分から穴を掘って下から潜る。』…………泥汚れが目立ちますね。

…………では…………『棒高跳びの要領で飛び越える。』というのは?

 長い棒は分割する事で隠す事が出来ますし、往復も容易です。」

 悪くは無い。が、しかし。

「棒高跳びはリスクが大きすぎる。分割する棒では強度に不安が起こるし、何より、見回りの人間に見られたら不味い。

そうだねぇ……凧を使うならば行きは前に教えた『グライダー』という紙飛行機擬きを使う。

そして、帰りはそのグライダーに大きな輪にした糸を掛け、凧として使い、部屋に戻った後で糸の輪を切って引っ張り、回収する。

という改善方法が有る。」

 が、そんな面倒を起こさなくても、ここには魔法という方法が有る。

 「柵の材質にもよるが、『柵の一本二本を熱で溶かして切断。脱出の後にまた溶接して戻す。』という方法も有る。」

 「成程。」

 振動や加圧をするまでも無く、それなら簡単に脱出できる。

 「他にも色々方法はあるが、まぁ、それが一番速いだろう。」

 そんな事を言っている内にミス=アベルは続ける。

 「更に、これを機に構内設備を整え、火事等が起きた際用のスプリンクラーを設置しました。

 一定の熱を感知すると自動で水が降り注ぐ様になっていますので。火遊びやランプの不始末等には特に注意して下さい。」

 この前の炎上事件から初期消火の重要性を如何やら学んだらしい。

 「中々便利じゃ無いか。」

 「便利……ですか?」

 シェリー君は『本来なら厄介なものとして認識すべき』と考えていたのだろう。

 「火を起こすだけで意図的に水を降らす事が出来るのだ。これ以上楽な水の確保方法はあるまい?

有事の際は目くらましにだってなる。

 どんなものでも自分にとって厄介であれば自分にとって有益になり得る。」

 「成程……。」

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