新学期初日、授業


「最後に、重要な事を一つ。」

 そう言って一際大きな声で女教師は呼びかけた。

 「学長室への立ち入りは固く禁止します。

 これに至っては即退学もあり得るので気をつけて下さい。

 何より、あの部屋の警戒は特に厳重なので警備システムで怪我をする恐れさえあります。」

 おっと、『警戒厳重』・『ケガするかも知れない』とは………勤勉で真面目で好奇心旺盛な私をくすぐる台詞ではないか。

 「教授、先に言っておきます。駄目です。」

 読まれた。

 「そう言わずに一度くらいどうかね?」

 「不法侵入です。不必要なので却下します。」

 「………もしかしたら面白いものが有るかも……」

 「駄目です。」

 何時か、マッチポンプで必要な状況を作り出して潜入するとしよう。

 「他の点は今まで同様です。

 皆さん、慎みと淑やかさ、節度を持って後期も生活して下さい。以上。」

 こうして、初日の説明会は終わっていった。




 アールブルー学園の授業は説明会の翌日から始まる。

 それは、三時間目の授業。魔法に関する授業であった。

 「魔法というものには幾つもの性質が有ります。その中の一種。『強化魔法』というものが有ります。

 今日はこれを学びます。」

 背中の曲がった小柄な老人が授業を受け持っていた。

骨ばった腕、瞑っている様な小さな目、金縁の眼鏡を掛けた白髪の穏やかな老婆であった。

 「身体能力の強化といったものは特に『肉体強化』と言われ、よく冒険者の方や騎士の方が使われるのを御存じでしょう。

 皆さんが強化魔法と言って初めに思い浮かべるのもコレだと思います。」

 脳筋教師がいつか使っていたアレだ。

 シェリー君も数秒、短時間ならある程度は使える。

 「あれは魔法の根源の魔力を体に流し、筋肉を活性化させて使う物です。

 が、強化魔法には他にも種類が有ります。

 今回はその強化魔法の中でも『強度の強化』について学んでいきたいと思います。」

 あぁ、アレか、丁度良い。

 「仮に、これを『強度強化』と呼びましょう。

 これは脆い物体をより強固に、堅牢にする効果に秀でています。

 例えば……………」

 そう言っておもむろに取り出したのはガラスの小瓶だった。

 「この小瓶、何の変哲もないガラスの小瓶です。

 確認して下さい。」

 そういって最前列の生徒にガラス瓶を渡して確認させる。

 「よろしいですか?よろしいですね?

 では、……」

 そう言ってガラス瓶を頭上に掲げたかと思うと、地面に叩き付けた。

 「ッ!」

 目を瞑る生徒達。

 ガラスが砕け散る音が響く…………と思っていたが………

 ガキン!

 金属が叩き付けられる様な音が教室に響き渡った。

 「えー………このように、『強度強化』を用いれば、物体本来の持つ強度を上回る強度を一時的に持たせる事が出来るのです。

 この通り。」

 そう言って屈んで拾い上げたガラス瓶には傷一つ有りはしなかった。

 あちこちで感心する声や息を飲む音が聞こえた。

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