新校舎

斬新な凶器を使った暴行事件(朝礼)が終わり、ようやっと解放された所で生徒たちが向かった先は新たな校舎だった。

 新しい校舎は木の匂いが辺りを包み、歩いても足元からギシギシと床板が軋むような音はしない。

 建材がささくれているという事は無いし、薄暗い印象も無い。

 「全く、残念で仕方がない。」

 「?どうしたのですか?特に構造上に問題が有る様には思えませんが…………?

 それとも、教授の好みとしてこう言った新築の建造物が嫌いだったりするのでしょうか?」

 「違うともシェリー君。

 これだけしっかりした建造物だと以前の建造物の様に木材のヒビ割れた隙間に何かを仕込む事が出来ず、足音に気を付ける事も無くなってしまう。

 全く、細工のし甲斐と鍛える場所が無くなるのは由々しき事態だ。」

 「あぁ、そう言う…………………。」

 半ば呆れた様にシェリー君が応えた。

 「シェリー君、一体次は何処に行くのかね?

 教室に向かっている………訳では無さそうだが?」

 ゾロゾロゾロゾロ……蟻の行列の様に生徒達が列を成して歩いている。

 全生徒が列になって一階から二階へ随分な遠回りをして歩き続けている。

 「いつもであれば、この後直ぐに新学期の教訓や頒布物の配布が教室で成されるのですが、今回は新築された校舎を案内する………のでは?」

 「成程。しかし…………………意味が有るのかね?」

正直、校舎探検する意味が見出せない。何故なら、本当に代わり映えしない校舎だからだ。

 焼け焦げる前の校舎と少しばかり天井までの高さや床板の紋様が変わってこそいるが、間取りに関してはほとんど変わっていない。

 元々校舎で迷うような珍事が無かった人間なら、新校舎で迷う心配は何処にも見出せない。

 「確かに…………外見が変わっていなかったので少し驚きましたが、まさか中身までほとんど同じとは……少し意外です。

ただ……」

 シェリー君が言い辛そうにとある場所に目をやる。

 何をか言わん。私もシェリー君と同じ気持ちだ。

 「あんなものは確実にこの学園内には無かったな。

 全く、財の使い方というものが解っていない人間の財の使い方だ。

 学園に余り居ない人間の為に何故ここ迄の物を作るのだろうかね?」

 私達の目の前に有るのは扉だった。

 と言っても、他の扉とは全く違ったものだった。

 他の扉の木よりも明らかに品質の良い木材。

 扉の表面にはドラゴンや一角獣、その他幻想の生き物の緻密な彫刻が施され、その周囲には純金と思しき装飾が施されていた。

 露骨に豪華な扉にはこんな文字が書かれていた。


 『学長室』と。


 一体、何が目的でこんなものを作っているのやら。

 「しかも、最上階のこの部屋の真下には教室が無く、応接室やらその他諸々実用性の無い部屋ばかりという徹底っぷり。」

 面倒な事になりそうだ。

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