苦悶の一日

パリーン

本日二度目。間髪入れずに食器の割れる音が食堂に響いた。


殆どの人間がそちらを向いた。

流石に間髪入れずに二度も食器が割れるなんてアクシデント誰も予想するまい?

割ったのは娘(小)。娘(中)の後ろに居た彼女が皿に手を伸ばし、手を滑らせて割ったのだった。

「…………………も、………申し訳ありません!」

食堂に居る全員が自分に目を向けている事に気付いて娘(小)が頭を下げる。

他の連中も凝視するのは気まずいと視線を逸らして食堂は何事も無かったかのように先程同様の風景に戻っていった。




…………………………………………………………………………………

会話が無い。どころか音が無い。

食べる時には会話が有り、食器を取る音が少しして、料理の感想を言い合い、何かしらの音がして然るべきだ。

全く、無音状態の食事なんて………味気無いものだ。

まぁ、今回は食事の静寂の中に明らかに、露骨に執念めいた何かを宿した視線が3つ。こちらに向いているがね。

正面の娘(大)その左右に陣取る娘(中)と(小)。

三人はシェリー君の食事の動き一つ一つを食い入る様に見ていた。




パンを千切って口に入れる。

それをゆっくり咀嚼し、口の動きが止まった。

盆の上のスプーン!………では無くフォークを取って、ソテーを口に運ぶ。

これまたゆっくり、ゆっくりと口を動かしていく。

あぁ、何でこういう時に限って先にスープを食べないの⁉

速く食べて!早く食べて!早く、速く、疾く、速く、疾く、早く…………!

モグモグモグモグ

乱暴に口の中にパンを捻じ込んでいく。

木の実の風味と小麦が口に広がるが、今はそれどころではない。

スプーンを取った!

スープにそれを伸ばし………違う!果物!

果物を掬って食べ始める。

肝心のスープを口にしない。

あぁ、イライラする!

自分はスプーンを取ってスープを口にする。

相手にそれを唆そうとは考えていない。

イライライライラ

スープの酸味と野菜の旨味、少しの塩気と苦みが食欲をそそる。


そうして…………私がスープを完食し終えたところで。


ゴクリ


スープを……………飲んだ!

勝った!確実に!

思わず両隣の妹達に視線を送る。

もうこれで勝った。

あとはこの女が苦しむのを待つだけ。

これでやっと食事が楽しめる。

そう思って安堵し、果物へと私は手を伸ばした。


ジュワッ


口に含むと甘酸っぱい果汁が口に広がった。






その日の授業、あの女が授業中にどんな顔をしていたかなんて私は知らない。

そんな事、最早どうでもいい事だ。

何故か?

このお腹の痛みに比べればあの女なんてどうでもいい事この上ないからよ!



「ッゥゥゥゥーーーーーー!!!!!」

苦しい、痛い、でもそれを口にする事も出来ない。

保健室のベッドで痛みに悶え、私の一日は浪費されていった。


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