教授の毒物特別講座

毒物を使うのは非常に便利だ。

『凶器たる毒を用意する難易度が高い』だって?あぁ、確かにそうだとも。

そこらの店で包丁や銃が売っていることが有っても水酸化ナトリウムやアコニチンや青酸カリやテトロドトキシンが店頭で売っている事は無い。先ず入手時点で足が付く。

自家製で作る手立てや自生している物を煎じる手も有るが、その手法には専門知識を要するために、難易度は高い、更には専門知識を持っているだけで疑いの目を向けられる。

『独学で誰にも知られずに毒のプロフェッショナルになる場合』を除いて毒物は便利では無い?

最後まで話は聞きたまえ。

確かに、銃や剣、この世界であるならば魔法も含めるが、それらの方法は非常に身近で便利だ。

しかし、それらの手法、力づく・腕尽くで相手を始末する事が出来ない場合が存在する。

例えば、君がナイフを持っていたとしても、ナイフが刺さらない馬鹿げた筋肉の持ち主が相手である場合が有ったとしよう。

この場合、毒は非常に有用である。

例えば相手の食事に毒を混ぜ込めば、どんな筋肉も毒を防ぐことは出来ない。

『毒へ耐性が有る場合どうする?』だって?

私の1000を超える毒のフルコースを食べて平然と出来たなら、その問いへの解答に困るとしよう。

私の毒のフルコースは素晴らしいぞ。天にも昇る気分、ほっぺたが落ちる、電気が走った様になる………それらを実際に引き起こせる。

たとえ毒1種に対応されてもそれは問題では無い。

残り999種で蝕めば事足りる。

そう、『自分の技量関係無く、相手の戦闘力関係無しに取り敢えず飲ませれば毒は働いてくれる。』これが毒の有用な点の一つだ。


未だ有用な点は有る。

毒は飲ませる場合、種類によって時間差で効果が出るものが有る。

もし、毒を飲ませた相手が数時間後に毒で苦しんだとしよう。

毒の種類からして遅効性だと解ったとしよう。

そうした場合、『一体どこで毒を摂取してしまったのか?更に、一体誰が毒を入れたのか?』という疑問が捕まえる側には起こり、捜査の攪乱が可能になる。

巧みに、誰にも、本人にも気付かれずに毒を混入させる事が出来れば、毒を入れた人間どころか何に入っていたかさえ特定不可になるのだ。

相手が毒に苦しんでいる間、事件として騒ぎになっている間、自分は遥か遠くの教室で大勢の教え子の前で講義をしていられる。

赤の他人として何食わぬ顔で振る舞える。


ただ、今言った利点には大きな前提がある事を諸君は気付いたかね?

毒の利点の結論として、『毒は気付かれずに飲ませれば刃物以上』である訳だ。

そう、逆に言えば、気付かれた時点・・・・・・・で役立たずとなる・・・・・・・・

毒を入れる瞬間を見られてしまっては、警戒されて毒の効き云々以前の問題が起きる。

『何かを食べさせていた。』という証言だけであっという間にお仕舞だ。

そう、気付かれずに飲ませる事が出来なければ無用の長物。

目的を達成するまでも無く、直ぐ捕まる。どころか、その毒を自分に返される場合さえある。



これは、やってしまえば間抜けな話以外の何者でもない。

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