強風は毒を巻き上げる


パラリ パラリ パラリ

朝の陽射しを受けて読書をするシェリー君。

ガランとした食堂、積み上げられた真っ白な皿、緑色の教科書、どこかから香る食事の香り…………。

朝が来た。

いつも通り、シェリー君は一番乗りをすると読書を始めた。

まぁ、爽やかな朝にはなりそうも無い事は安請け合いするまでも無い。

3-2=1だ。少なくとも未だ一人、何か良からぬ事を考えている輩が居る。

まぁ、『次に何をしでかすか?』という疑問は、先程から食堂の外から覗く視線の主を見れば解答は出来る。


食堂、悪意の目、そして…………片手を懐に入れたまま。


身の程を知らないようだな。

私にとってそれ・・を仕掛ける事と解く事は得意分野である。





食堂に人が集まり始め、壁際の一画に、大皿や大鍋といったものに入った食事が置かれ始めた。

ここは自分で皿を取り、自分で料理を配膳する方式らしい。

全く、最高の環境だな。

相手は自分でやるからと油断するし、行程を複数にする事で難解さは増幅される。

シェリー君は教科書を小脇に挟んだまま盆にフォーク、スプーンを取ると食事の列に並び始めた。

今日のメニューは、『木の実の練り込まれたパン』・『野菜と塩漬け肉のソテー』・『様々な具材の入った真っ赤なドロリとしたスープ』・『ピンク色の瑞々しい果実』『皮付きの小さなバナナの様な果物』の5つ。

栄養価的にも、策略的にも素晴らしくバランスが取れているな。

さぁて、どうするかね?娘(大)。

食事の給仕を終えたシェリー君が席に着くと、大胆にもシェリー君の目の前に娘(大)は座っていた。

意味深にニヤリと笑ってはいるが………せめて不安過ぎて1・2分に1回、懐にある物を確認するのを見せつけるのは止めて欲しいものだ。

露骨過ぎて腹筋に応える。

さぁて、ではもうそろそろ始まるだろう。

娘(大)が背を向けると丁度食事の列に並んでいた娘(中)に何か合図を送った。


それを受けた娘(中)は………


パリーン‼


手の中に有った皿を落とした。

皆がそちらに目を向けた。

一人を除いて。




全く、妹達は浅はかだわ。

獅子はたとえネズミであれど全力で狩るものです。

たとえ相手が自分よりはるかに劣るものだとしても。全力を尽くして潰す!

何より、私の妹二人を虚仮にしたのです。その落とし前はつけて貰わねばなりません。

そう、………この、毒薬で。

アイツの目線は割れた皿に注がれている。隙だらけ。

懐に隠し持っていた毒液の入った瓶を取り出し、目の前の女のスープ皿にこれでもかとばかりに注ぎこんだ。

レッドラインの力をもってすればこの程度用意するなんて造作も無い。

別に、殺しても良かったのだけど、目の前で汚物を撒き散らされて死んだらこちらの気分が悪い。

良くて腹痛になる程度。慈悲と思うが良いわ。

オーッホッホッホッホッホッホッホ!

声に出さず、勝利の高笑いをした。

皿を割ったセントレアは謝りつつもアイツの末路を考えて嗤い、

その後ろに並んで皿を掴もうとしていたミリネリアも同じように嗤った。




パリーン!

皿の割れる音がまたも食堂に響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る