教授とシェリー君の授業風景

何処かで、具体的には宿舎で、妹の仇討ちでも決心しているのだろう。大中小は。

「あぁ、シェリー君、そこは乗法で統一した方がやり易くなるよ。」

「有り難うございます。」

全く、私が何をしたと言うのかね?

階段に張られた糸を避け、足音を消して上階まで上がり、階段に置いてあった泥水バケツを少し移動させただけだと言うのに…。

全く、私がどんな凶行を行ったと…「もう一度見直してみたまえ、何か見落としがあるかもしれない。」

「見落とし……あ!!」

「数式の途中で少しでも違和感を覚えたら、先ずは数式を見直してみたまえ。 前提がそもそも間違っている可能性が有る。

単純な数式程度なら最初からやり直しで済むが、複雑な式においてこれを怠っては致命的となり得る。」

「解りました。」

どんな凶行を行ったというのかね?

「終わりました。」

「ミスは特に無し。

あぁ、この部分、正解ではあるが実践するとあまり合理的でない。

実践するならばハニカム構造という蜂の巣の形状を模した手法を使うとより良い。」

「成る程。」

「この問題も、課題や机上の空論では問題は無いが、この規模ならば火を起こして対処すれば魔法は不要だ。

魔法は行使の回数に制限が有り、かつ適性も有る。

ならば、周囲に在って安定したものを使う方が確実で消耗も少ない。」

「……そんな事まで………。」

「『そんな事』。ではない。

今有る手法が正解とされていても可能な限り追求はすべきだよ。 『より効率良く』・『より正確に』その考えを常に抱き、常に『より良い手法を』と思い、渇望し、研鑽すれば、今の自分よりも数秒先の自分の方が微量であっても向上する。そして、」

「微量でも何百倍、何千倍にすれば有意な差となって表れる。ですよね?」

教え子の成長とは悪くないものだ。

「その通りだ。今のシェリー君ならばあと数カ月としない内に100人くらいの凶器を持った大の大人を相手に大立回りが出来る位には成るだろう。」

これは真面目な話だ。

「そんな……まさか………私には未だ出来ませんよ。」

シェリー君はそう言って笑った。

まぁ、夏休み中にシェリー君が出来る様に私がする訳だがね。

「そう言えば、直に夏休みだが、テストは無いのかね?」

「テストですか?テストは有って無い様なもので、実際に成績の指針になるのは出席や日頃の課題やテストの結果です。

成績は年度末に一回だけ。そこで失敗すれば………。」

「成程。だが、シェリー君?あの教師達相手によくもまぁここ迄君は追い出されずに済んだものだ!

成績がテストでない。つまりは心無い連中に成績を良い様に改竄されかねないのではないのかね?」

何せあの脳筋教師がこの前までまかり通っていたのだ。

それでもシェリー君が生き残っていたという事は、シェリー君がそれ程までに優秀だっただけでなく、もう一つ要因が有るだろう。

想像に難くはない。

「あぁ、それに関しては問題ありません。

成績の総監督を行っているのはミス=フィアレディーです。

たとえ0.1%の誤差であってもあの方は許されません。徹底的に全校生徒の成績を一人ずつ監査してミスが有ればやり直し。という体制を取っているそうです。

そもそも本学園の年二回の長期休暇の意味は休養では無く、『半期分の成績管理と審査・精査為の時間』という面が大きいのです。」

成程、それならばある程度の公平性は期待出来そうだ。

まぁ、それでも見逃している部分が多々有ると思うがね。

まぁ、そこは如何でも良い。

私がシェリー君の努力と実力を知っていれば良い。

いざとなれば成績程度、改竄は容易だ。

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