超絶技巧教授
前回の粗筋:教授が賊に悪夢を見せていた。
人間は世界という変数を幾つもの感覚器官で観測している。
目から観測される変数、
耳から観測される変数、
鼻から観測される変数、
口から観測される変数、
肌から観測される変数。
これらを統合して世界を観測している。
それらの複合的要素を総合して人間は世界を認識している。
が、それ故に人の現実や世界は脆い。
例えば、それらの内の幾つかの変数を弄べばどうなるか?
観測結果は変化し、地面が有るべき場所に地面を喪い、無い筈の相手の姿形を目の前に作り出し、幻に囚われた様な醜態を見せる。
矛盾が人へと牙を剥く。
さぁ、三流の
特別に超絶技巧、美麗にして邪悪なモリアーティーの美技を、身を以て、味わえる機会を与えたのだ。
「つまり……どういう事ですか?」
「要は、魔法を使って眼球ギリギリの所に自分の見せたい光景を映し出した訳だ。
奴等は今、巨人の怒りを買って悲惨な地獄を見ている。」
シェリー君が閃光を使っていたのを見て、眼球に任意の像を映し出せれば相手の視覚を騙す事が出来る。と考えて実行した結果、殊の外上手くいった。
「ですが、それだけでは見間違い程度としか思われないのでは?有るべき物が無ければ気付きませんか?」
最もな質問である。
「そこで別の変数だ。触覚は電気で痛覚や溶けて無くなる肉体の感覚や振動を再現する。
耳からは映像に合わせて肉体が溶けて
嗅覚も電気で存在しない溶解した肉と腐臭を作り出す。
味覚も同様だ。
これら5つの変数を同時に相手に知覚させる事で私に都合の良い幻覚を見せる事が出来る。」
「………途中、巨人や肉が溶けるとか、腐臭といった聞き捨てならない物騒な文句が聞こえましたが……!?教授、一体何を見せているんですか?」
目の前に広がる、糸で縛られ、身動きが取れない中で呻き声を上げて苦しむ賊達を見てシェリー君がぎょっとしながら非常に不安げな声で質問をするが、今回はスルーしよう。
『シェリー君が巨人になって相手を溶かしてしまう幻覚ならぬ現覚を見せている。』なんて知られたらどうなる事やら………。
「まぁ、大したことにはなっていない(タブン)。」
「でも、教授?おかしいですよ?彼らは身体を縛られて動いていません。ですが、幻覚内では動けるのですよね?」
「あぁ、その通りだ。肉体自体は停止しているが、『動いている』という電気信号を与えて動いている感覚だけを与えている。
別に、何もおかしいことは無いが…………?」
「幻の中では彼らは自分の意志で動いているのですよね?」
「あぁ。勝手に動いてしまったら、それは夢だろう?」
「では……矛盾しないようにするためには『自分のしたい動き』と『目から見える映像』や『体の動く感覚』が一致しなければなりません。
一体どうやってそんな事を……?」
「あぁ、例えば、『自分が右を向いて動こうとしたときに、左向きに体が動く感覚がして、映像が動いたら矛盾が起こる。』という事でいいかね?」
「そうです。それを如何やって………?」
「あぁ、ここに居る連中が如何動くかを予測して、その予測に基づいて映像や感覚を送っているが?」
シェリー君が絶句した。
「………………教授。私は、未だ未だ未熟なのですね……………。」
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