傀儡の魔王

体が動かない。

剣を避けられて胴に触れられただけなのに、次の瞬間、体に力が入らなくなった。

瞼まで固まって瞬きさえ許されない。

体を動かそうと思っても、体が硬直している。そもそも力を入れられない。

何が起きた?



背後から完全に気付かれないタイミングで槍を突いた。

だがどうだ?後ろに目が付いている奴の動きで槍を避け、次の瞬間にはこのザマだ。

情けないを通り越して惨めだ。 振動と音が未だあの餓鬼が健在だと教える。

聞こえる短い呻き声の数々が、こちらが劣勢だという現実を突き付ける。

怪我も痛みも無い。加勢に行きたい。

しかし、バジリスクに睨まれたかの様に体は動かない。



俺は…やった筈だよな?

槍を掴み上げて隙だらけだった餓鬼の背中に槌を振り上げた。

確実にそれは入った筈だ。その証拠に餓鬼は吹っ飛んだ。

ただ、羽根を殴っているような得物の感触に違和感を感じた。

それがこのザマだ。

あの餓鬼は一体俺に何をした?


辺り一帯に賊の生ける屍が幾つも転がっている。

頃合いだ。

「これくらいなら良いでしょう。さぁ、皆さん、立ち上がって下さい。」

パンパン

手を叩く。無論この行動に意味は無い。

ただ、演出としては意味が有るだけだ。

私が倒した賊が立ち上がる。

ある者は剣を、ある者は槍を、またある者は槌を持ってヨロヨロと立ち上がった。

「何をボヤボヤしてる!?さっさと殺せェ!!」

絶叫にも似た怒号に誰も応えない。どころか…

「……」

カキン

ある者は剣を味方に振り上げた。咄嗟の事で相手は反応が遅れた。

ヴォンヴォンヴォンヴォン!

ある者は槍を振り回して辺り一帯の味方を薙ぎ払う。

ガツーン!

ある者は槌で味方を打ち、それをまた味方にぶつける非道な手段を取っていた。

賊が同士討ちを始めた。




生物は電気信号で肉体を動かす。

生物たる人間もまたその例外ではない。

例えば、一対多数の闘いにおいて、一が多数の戦力を自身の戦力手駒として使えたら…それは悪夢とは思えないかね?

電気信号の傀儡人形の手法を用いれば、それが出来る。

亀の様に鈍間な攻撃を躱して相手に触れ、電導性の高い糸を、糸を余らせた状態で・・・・・・・・・相手に付ける。そこから相手に電気を流し込み、相手の運動機能を封じる。

あとは適当な人数に糸を付け終わったタイミングで全員に電気を流して、私の意のままに動く傀儡人形の集団が味方に牙を剥き始める。

操っているのは私。つまりは私の立ち回りによって動く訳だ。

賊の精度は洗練されたものとなり、数が劣っていても十分圧倒できる。

更に、

「止めろ!俺は味方だ、だ、だ、だ、だ、だ、だダダダダダダダ」

操られていない賊が操られている賊に攻撃を受けて痙攣を始めた。

私の傀儡に触れた者もまた、間接的に私の傀儡に出来る。

動きを止めた所で最初の一人に付けた糸の余りを付け、一本の糸で二人三人と傀儡を増やしていく。

さぁ、どんどんかかって来ると良い。

攻め込めば攻め込むほど味方は減り、私の傀儡という厄介な敵は増える。

お前達に、勝ち目は無い。

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