失敗と成長
「シェリー君の予測は甘かった。
洞窟の規模を見た時点で、否、この村に来る前から未知の戦力の可能性を予想できなかった。
何より、自分の作戦が失敗する事、最悪の事態が起こる事を前提で動かず、第二プランを立てていなかった。
シェリー君、君の負けだ。このまま行けば魔力が尽きて熊と蛇に致命傷さえ与えられずに……死ぬ。
諦めたまえ。」
「教授……たとえ教授の忠告であっても、出来ないことが有ります。
無理です。ここで諦める訳にはいきません!」
シェリー君が蛇と熊を避けながら強く拒否する。
「『出来ない』ではない。最早君にやれることはない。諦めて」「嫌です!ここで諦めたら誰が皆さんを助けてくれるんですか⁉誰がこの人達を止めるのですか⁉私しかいないのです。私が助けなければ!!」
私の言葉を遮ってシェリー君は熊へと攻め込む。
『爆炎』
熊に向けて大きな火の塊を撃ち込もうとする。が、頭に血が昇って冷静さや狙いの欠片も無いものに当たるほど獣は愚かでは無い。
「ゴゥ!」
「ぐ!『暴風』………が!」
炎を躱して迫る熊の一撃がシェリー君を捉えた。
咄嗟に魔法で相殺を試みたものの、完全に躱されたのが予想外であったが為に反応が遅れ、間に合わずに衝撃を殺しきれなかった。
華奢な少女の体が泥の中に転がっていく。
今のシェリー君にとっては最早抵抗するのも精一杯。このまま行けば、消耗戦で打つ手が完全に尽きてしまう前に戦力差で押し切られて負ける。
「勝ち目は最早無い。」
断言する。
「嫌です。嫌です!
ここで私が諦める訳にはいかないんです!
ここで私が折れたら……折れたら…………誰が助けてくれるのですか!」
唇を噛み切りそうな勢いだ。全く、悲しくなってくるな。
「諦めろ。今の君には勝てない。
今は未だ、君の力では及ばない。
今回は完全に失敗した。が、
もし次に同じことが有った時には、今度は勝てればいい。
忘れるな。無謀と勇敢は違うものだという事を。
忘れるな。身の程を知るという事は諦める事では無く自分の力量を見極める事だ。
そして、忘れないで欲しい。君は未だ発展途上だという事を。
忘れないで欲しい。君が折れても、未だ私が居るという事を。
シェリー君、存分に失敗したまえ。それが君にとって有益な事になる。失敗は人へ原動力を与え、失敗という事柄を知る機会を与え、成長させる。
『失敗したその後始末は如何するか?』だって?
何の為に私が居ると思っているのかね?
たとえ致命的な失敗をしても状況を引っ繰り返せるこの私が居るからこそ、存分に失敗したまえ。
君が失敗を知り、失敗を覆せるようになる迄の間、私が君の失敗を担おう。
失敗を以て大きく成長したまえ。シェリー君!
全く、私の存在に頼りっぱなしは感心しないが『誰が助けてくれるのですか?』という発言には流石の私も悲しくなってしまった。」
やろうと思えばシェリー君の作戦の欠陥を指摘する事も出来た。
が、それでは何時まで経ってもシェリー君は失敗を知らない。
私に頼り切りになる恐れさえあった。
故に、今回はその欠陥を指摘させて貰った。
シェリー君はこの休みの間にかなりの経験を得て、成長を遂げた。
が、肝心な成長と経験、『失敗』が未だだった。丁度良い機会だったさ。
「さて、では………この状況まで善戦したシェリー君に敬意を表し、同時に、私とて成長していない訳では無いという事を見せるとしよう。
何より大事なのは成長を忘れない事だ。それは
何より、教え子が成長しているのに教え授ける者が停滞していては話にならないからね。」
「………………はい?成長………ですか?」
シェリー君が首を傾げる。
フッ
「シェリー君、君に
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