廃墟炎上


辺りを見回すが、人の影が無い。

隠れている?馬鹿な、あの人数だぞ?

人の気配が全く無い。なんて有り得るか?

逃げた?まさか。

「おいお前ら!自分達の立場が解ってるのか?

まさかそこまで身の程知らずな駄犬じゃないよなぁ!?」

廃村に怒声が響き渡る。

直ぐに隠れていた奴隷イヌが出てくる。


そう、思っていた。


「あなたは一体、何をのたまっているのでしょうか?」

廃村の奥から一人だけ、餓鬼が出てきた。

間違いない。あの餓鬼が俺達を虚仮にした奴だった。

「勝手に土足で上がり込んで、聞くに耐えない戯れ言を叫び、何がしたいのでしょうか?」

イヌの癖に生意気な…。

内心気が気でないのを押さえつけて必死に虚勢を張っているのが想像出来る。

「ここから立ち去るのであれば、二度と我々に干渉しないと言うのであれば、何もしません。

ですが、もし拒否なされるのであれば、容赦の一切はありません。」

弱いイヌほどよく吠えるとはよく言ったものだ。

「解ったよ 死ね。」

剣の切っ先を餓鬼に向けた途端、切っ先から目も眩む光が現れ、娘を焼き殺した。




この世界には魔剣と言うものが有るらしい。

それは目を見た途端に石化する怪物の首を斬り落としたり、ドラゴンを斬り殺したり、追尾する飛び道具擬き………そんな代物な訳でなく、魔法の力を帯びた剣だと聞く。

あの火を吹く剣がそうなのだろう。

あの程度の火なら、魔法なぞ使わずとも出せる火力と規模だと言うのに…愚かしい限りだ。

何より愚かしいのは黙って殺しに来なかった事、あの程度でシェリー君を亡き者に出来ると考えていたことだ。

本当に命を奪いたくばただ黙って奪うべきだ。

シェリー君に傷を付けたくば、家一つを一瞬で焼き焦がせるだけの兵器を持ってくるべきだ。

たかが200人と松明擬きで我が教え子の相手をする?

笑止、冗談にしても笑えない。

要は、シェリー君に向かって放たれた炎はシェリー君の肌も髪も焼かずに素通りしていった。

当然だ。『これから撃つ宣言』をした挙句『どこを狙うか指し示した』上で『鈍くて見える飛び道具を打ち込む』なんて、どう頑張った所で当たれる訳が無い。

「いやぁ、今日の空気は随分乾いているなぁ。」

後ろで沼に飲み込まれた火を見ながら呑気にそう言う。

「小癪な真似しやがって………。」

顔が強張っていた男の顔が直ぐに意地汚い笑みに変る。

「お前、ここが大事なんだなぁ。」

「えぇ。」

「じゃぁ……………こぉんな事は如何かなぁ?」

男が剣をまたしてもシェリー君に突き付ける。

と、思いきや、直ぐに切っ先を横に反らし、今度は建物に火を放った。

「あぁぁ!なんてこった。大事な大事な村に火が付いちゃったぁ。

如何しよう?村が燃えちゃう。ハーッハッハッハッハ!」

わざとらしい言い草で大袈裟に笑う。

後ろに居た手下もそれにつられて笑い出す。

「火遊びなんて、危ないですよ。

碌な事は起こりません。」

シェリー君は冷静に、燃える建物を見ながらそう言った。

「安心しろ、火なんて無くてもロクな事は起こんねぇよ!余裕ぶってるその顔、直ぐにぐっちゃぐちゃになるからなぁ!

お前ら、やれ!」

剣をシェリー君に向けると賊が焼ける建物の合間を縫ってシェリー君へと突進していった。

剣、槍、斧、槌、杖、ハルバート……………何人もの人間が各々武器を持っている。

対するこちらは一人、しかも丸腰。



絶体絶命、ピンチだなハハハハハハハハハ!

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