社長モリアーティー

こちらの戦力……非戦闘員129名+1(+1)=戦力0

賊の戦力……武装した戦闘員371名+α=戦力371以上



ハハハハハハハハ、飛車角落ち所の話ではない。

キングのみで無傷の敵陣を掻い潜ってチェックメイトする方が簡単だ。何せこちらには手駒が無い。

武器となる物?鍬や鋤で剣を相手に如何しろと?暴徒ならば数で圧倒できるが、こちらは人員が少ない。

後遺症が無いとは言え消耗が無い訳ではない非戦闘員が武装した戦闘員を如何こうしようなどといやはや可笑しい。

まぁ、これは戦闘では無いのだから構わないか。

無論、シェリー君と私が戦闘・・を行えば、この程度はハンディにならず、371名の人間がただ地面に伏すのみには出来る。


が、シェリー君は殺す気も戦う気も無い。

くどい様だが殺す方が簡単なのにも関わらずシェリー君はそうしない。

わざわざ茨の道を進んでいる訳だ。

が、私の目の前ではその茨の道を歩み、どころか征する少女が見える。



それは、洞窟からの脱出劇の翌朝から始まった。



ギィコォギィコォ!バサバサバキバキバキバキ………

木々が鋸で薙ぎ倒されていく音が聞こえる。

「時間が有りません、木材の表面を滑らかにする必要は有りませんが、最低限の細工が出来るくらいにはお願いします。」

泥沼の表面に土をかけてならす人々もいる。

「地面の表面は模様などの細部再現はしなくても構いません。ただ、厚みは規定値を守って下さい。

そして、終わった場所には石や砂を撒いて下さい。踏まない様に。」

二つの村、合計129名が別の動き、別の作業、バラバラな行動をしながら、しかし、確実にそれらの行動の核には一つの意志と目的があり、一人の少女の指示によって確実に人々は目的の達成のために合理的かつ無駄が無く機能していた。

「削り取った泥は道の細工に使って下さい。それが終わったら、採取しておいた植物でカモフラージュをお願いします。」

小さな会社くらいならもう既に経営可能だね。これなら。

「手伝おうかね?シェリー君。」

このままいけば大きな問題が無く完了する事は知っているが、訊いてみる。

「有り難う御座います。ですが、出来る所までやってみたいので、もう少しだけ、宜しいでしょうか?」

「あぁ、良いとも。

ただし、致命的なミスが有ればその時は口を挟ませて貰う。良いかね?」

「はい、それだけは私には未だ何も対策が出来ませんので、是非、お願いします。」

良い顔だ。

これならば、371名の武装した戦闘員くらいならば余裕で手玉にとれるな。


「採取班の方。石はどれくらい集まりましたか?」

石を運ぶ男を見つけるとシェリー君が声を掛けた。

「100個程です。」

「では、あと半分は食事休憩の後で構いませんので、先にお昼をどうぞ。ついでに伐採班の方に声を掛けて、『必要な伐採分が終了したら一度食事休憩を取って下さい。』とお伝えください。

採取班の方は石を運び終えたら、伐採班の方と協力して仕掛け作りをお願いします。

あぁ、角度調整は私も手伝いますので、仕掛け作りが終わったら私を呼んで下さい。

これは作業メモです。」

そう言って紙片を男の懐に入れる。

「解りました。」

男はそう言って作業に戻っていった。

シェリー君は更に歩き、木片をヤスリ掛けする女性の元に向かっていった。

「どの程度集まりましたか?」

「予定の三割です。少し遅れています。」

女性の顔が曇る。

「問題有りません、それならば誤差の範囲内です。

後程作業班の手の空いた方から人員を補充しますので、そのままの速度で構いません。

出来たら指定した場所で乾燥させて、食事にして下さい。」

「解りました。」

「作業班の地面の仕上げが終わった方は食事の後、特殊加工班の手伝いをお願いします。

手が足りなかったり、予定よりも遅れていたりする方は早めに言って下さい。手を打ちます。」

「「「解りました。」」」

凄まじい勢いで作業が進んでいく、完成図が見える。

学園生活では必要無いが、この手の事柄に備えて作業管理術を教えていたのは予想通り、大正解だった。








お陰で私は、暇だ。


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