集団逃走1
「つまり……………」
「村の全員だけを助けるのでさえ難易度は高い。ジヘンの村人全員も助けようとすれば難易度は更に上がる。が、どうするかね…………………………聞くまでも無いか。」
「はい。全員助けましょう!」
死人の様な村人全員を幾人も抱えて逃げる。それは非常に困難だ。
加えて逃げおおせても、追手迄は躱しきれない。逃げ足は遅い。追手は多い。シェリー君の能力をフルに用いてもこの洞窟に居る全員を倒すのは困難だろう。
さぁて、本来ならば『無理だ』・『出来ない』と言うのだろうが、このモリアーティーは違う。
迷路の様な洞窟、足手まとい、賊のマンパワー
余裕だな。
「シェリー君、策を授けよう。
先ずは、村人から衣服を借りなさい。後は………………………………良いかね?」
「解りました。皆さん、聞いて下さい!」
檻の中の人々に作戦の概要を説明する。
一分後、作戦の火蓋は切って落とされた。
全く、息苦しい。
真下で薬品工場を回している連中を見下ろしながらため息をつく。
溜息が自分の顔の前でグルグルと渦巻き、熱気が籠り、余計不快感が増す。
「チッ!働けオラァ!」
八つ当たりとばかりに鞭を振り回して喚く。
涼しくなるわけも、呼吸が楽になる訳でも無い。余計マスク内に熱気が籠る。
毒ガスは下の方へ溜まるから下に居る奴等は知らんが、上に居る俺達はマスクをせずとも問題は無い筈だ。だというのに………
このマスクを付けろだ何だと、面倒極まりない。
シューシュー
眼下が蒸気と毒ガスで煙る中、一人だけおかしな動きをする奴が居た。
他の奴等が幾つかのグループで固まって一定の作業をしている最中、一人だけ、全く他の奴等とは違う動きをしていた。
他の奴等は下で滞留する毒ガスの所為で動きが鈍く、顔は青ざめ、ヨロヨロト彷徨い歩く様に無気力に、目的の無いが如く作業をしている。
そんな中、一人だけ、服装は他の奴等と似たり寄ったり、顔こそ青白いものの、動きは機敏で目的を持って動いていると様に見えた。
「オラァ!何してんだソコ!サッサと持ち場に戻れ!」
他の
「…………………」
無言でそいつは上を向いた。
視線の先には金の生る装置。
じぃっと一ヵ所を見ていたかと思うと………………
ヒュッ!
何かを装置に向けて投げつけた。
カンッ!
石がぶつかって装置から音が響く。
「何やってんだお前!」
そう言って一人が下へ降りて直々に折檻をしようと向かう。
そんな中、下で動いていた連中が奇妙な動きをし始めた。
ゾロゾロゾロ……石を投げた奴を中心に集まり始めた。
その歩みはふらついてはいるものの、何かの目的を持って動いているように見えた。
「庇う気か⁉
良いだろう。お前ら全員処罰対象だ!」
鞭を振り回して男が威嚇しつつ、周りにハンドサインで合図を送る。
俺らも手伝え……。という事か。
やれやれ。
そんな風に思いながら重い足取りで螺旋通路を下ろうとしていて気付いた。
眼下の風景がさっきよりもはっきり見える。
いつもなら煙って掠れるはずの光景がはっきりと、何も光を遮らない様に、見える。
そんな違和感の正体を考える余地は無かった。
何故なら、次の瞬間には凄まじい衝撃が全身を襲い、上下も左右も解らなくなりながら体をどこかにぶつけた。
最後に見た光景は真っ白な世界だった。
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