予想外の多さ


「皆さん、大丈夫ですか!?」

声を掛けるが誰も応えない。

「シェリー君、変装、変装。」

シェリー君がハッとなる。

そう、ここに居るのはシェリー君…ではなく賊の1人。答えようなんて意欲、有る訳が無い。

ましてや、判断力と生気を喪った村人には変装したシェリー君を区別出来やしない。

「私です。シェリーです!

ハリーさん、ジンダンさん、シエルさん、モーリーさん、カイナさん!私を憶えていませんか!?」

声をかけた途端、幾人かの目から虚ろさが消えて焦点がシェリー君に合った。

「シェリー?」「シェリーちゃん!」「まーぁ、大きくなって。」「何故ここに………」「ここは危ないよ、早く逃げな。」「息はなるべく吸うな毒だ。」

ガヤガヤと一部の人々が顔を上げて鉄格子に集まる。そう、一部・・

明らかにシェリー君の声に反応しなかった者達が居た。

それは息をしていない訳で無く、シェリー君の声が聞こえても、何も反応が無かった。詰まり、『シェリー君を知らなかった。』のが正しい。

そもそも…だ。

明らかに人数が多すぎる。

減ったなら解るが、増えた。

「この方達は………?」

シェリー君も気付いたようだ。

「忘れたかね?シェリー君。村に来た、君が今化けている男が君の村に何をしに来たかを。」

「はい、たしか、食料を500食程寄越せと…………つまり………」

「攫われた村人の数と賊、合わせても500人は居ない。賊はもう一つ、村を襲って労働力にしている。」

「酷い!」

「道中、賊に遭遇した街が有っただろう?『ジヘン』。

ここに居るのはあの村の人間だ。」

思い出してくれたまえ。あの村の状況を。

廃墟同様であり、投石一つで倒壊するような状況であった。

が、あの村はつい最近迄、無事であった筈だ。

その根拠としては三人組があの廃墟を見て驚いていた事にある。

余程間抜けなら知らずとも不自然では無いが、あの三人は馬車の扱いと旅への慣れ具合は本物だった。

情報収集が必須である運び屋や商人にとってあの件は致命的。

あの場に行くまで本当に知らなかったのだろう。

要は、あの村がああなったのはごく最近の事だと示している。

そして、破壊の具合からして、死体の無さからして、獣や火事ではない事は確定。

地震や洪水も考えられない。

要は、人災である事を示している。

そして、人災であると仮定した場合、ここで問題が起こる。

『元々村に居た人間はどうなったか?』だ。

あそこに居た山賊が全員殺した?

その痕跡は無い。

何処かに捕まっている?

あの近辺にそんな場所は無かった。


そう、正解は。

『攫われて労働力にされた。』である。


あの時遭った山賊は、もぬけの殻の廃墟となった根城を偶然見つけた者達。

全く、どこにでも三流悪人は居るものだ。


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