喜べない再会
先ずは常夏のビーチの様な熱気と、喉を刺すような、それでいて澱んだ空気が出迎えてくれた。
そこは縦25m×横35m×高さ7mの開けた大きな空間だった。
高さや大きさのまちまちな、幾つかの出入り口が周囲に有り、そこまでの道として螺旋状の坂道が空間を取り囲んでいた。
シューシューと音と白煙を上げる、大きな蒸気機関の様な装置が空間の中央に陣取り、そこから伸びた配管が曲がりくねって下の方で白い液体を吐き出していた。
それを大きな金属製の円柱の缶で受け止め、蓋をして、斜めに転がしながら運んでいく人々が居た。
誰も彼もが青い顔をしながら、力無く作業を行っていた。
その様子は死体が歩いているようだった。
「村の方々です。」
装置を取り囲み、作業をする人々を見てシェリー君は言った。
「成る程。どう見ても、録な事はしていないな。」
目の前で稼動している装置は全くの初見ではある。だが、その正体は、幾つかの事から解る。
道中の空気、装置の外見的特徴や生み出している白い液体、それを運ぶ人々の顔色、
何より…
「十番遅い!さっさと缶を運び出せ!」
螺旋状の道に立って、働く人々を鞭で驚かすマスクを着けた輩。
これらを見て、あの装置から吐き出される液体が豆乳や牛乳だとは思うまい。
あぁ、控えめに言って毒物を製造しているな。
「助けましょう!」
勇み足で救助に向かおうとするシェリー君。
「待て、正気かね?
何の準備も無しに、わざわざ労働者を1人増やすために特攻して犬死するなど認めんよ。」
人を助けようとする義心は否定しない。
苦しむ人を助けようとするシェリー君の心は尊重したい。
だからこそ止める。
慈愛に因って悪手を成すというのなら、冷徹を以て最善を成す。 「状況が解らない。
それに、見たまえあの人の数を。
明らかに拐われた村人の数を下回っている。ここから視認できる人々以外にも未だこの洞窟内に拘束されている人々が居る。
もし、全員を助けたいと言うのなら、全員の位置と状況を把握するのが先だ。
冷静になれ。」
「………………」
拳が固く握られ、歯を食い縛る。
「解り、ました。
教授、宜しくお願いします。」
働かされている人を悔しさと怒りに満ちた眼で見ながらそう言った。
「無論だとも。
最善策を君に進呈しよう。」
シェリー君は走っていた。
螺旋通路を下った先の洞窟にむけて飛び込み、装置と村人に背を向けて走っていた。
「そこを右だ。」
指示と同時に減速すること無く横道へと曲がっていく。
あの装置から出ている有害物質は空気より重い。
お目付け役の賊共がわざわざ通路上部からわざわざ大声を出していた。しかも、全員だ。
効率を考えれば下に何人か配置すれば良いものを、しなかった。
何故か?
下は有毒ガスが溜まって危険だからだ。
もし、他に囚われた村人が居るとしたら、それはこの入り組んだ洞窟の下部。
毒が溜まりやすい、劣悪な場所だ。
更に言えば、あの装置から近く、足元の岩が磨り減っている場所。
したくもない危険な仕事を、無理矢理やらされるために大勢の人間が歩かされる、死への行軍の足跡を逆流すれば良い。
「そこを左!」
左に曲がったところで足を止めた。
その先は行き止まり。
鉄格子で左右に檻が広がっているだけの、行き止まりの通路が広がっていた。
鉄格子から漂うのは耐え難い悪臭。
中の人々は青ざめ、又は土気色をした肌と何かを見ているようで何も見ていない虚ろな眼をしていた。
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