答え合わせ
一歩、また一歩とシェリー君はタイルの上をゆっくりと歩く。
タッタタッ タタン タタタッ タタタタタタ タッタ タンタタタン
不規則なステップが聞こえる。
タイルの上を悠々と歩くシェリー君。
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ 小刻みなステップが聞こえる。
焦らず、ゆっくり、一歩一歩、歩を進める。
何だって?足音とシェリー君の歩き方の描写が一致しない?
心配は要らない。何も問題無い。
タタタタッタタッタタッタンタタン!
見張りが机に隠れた足を踏み鳴らす。
シェリー君はゆっくりと、
タイルの境界線を無視して、何も考えず、意味や特殊な法則も見出だせない、命懸けな筈の一歩を、まるで散歩をするように歩く。
そんな事をした結果、天井から生えた無数の棘がシェリー君を押し潰して串刺しに……ならない。 「こういう事ですか。」
「あぁ、無闇矢鱈と法則や公式や暗号を見出だそうとすればするほど、この手の仕掛けは手強さを増していく。」
おかしいと思わないかね?
スパイ防止とはいえ、明らかに過剰な防犯、そして、その割にお粗末な暗幕の目隠し。
シェリー君が化けている、あの程度の杜撰な賊がコレを毎回突破出来るとは考えられない。
が、もし、このタイル張りの床に何も細工が無く、普通に歩くことが正解だとすれば話は変わってくる。
要は『妙な歩き方をした
暗幕で視界だけ覆い、フェイクの足音を聞かせて事情を知らない輩を騙す。
三流にしては評価に値する。
が、目の前の泥だらけの男のお陰で、今回限り、難易度は異常に下がった。
泥だらけの男が歩いた後である筈なのに、何故かタイルが汚れていない。
靴の泥を落とした?
痕跡が無い。
靴を脱いだ?
では、暗幕越しに聞こえたステップは何か?
そんな風に考えられれば、
男は靴を脱いで歩き、見張りが靴を踏み鳴らした。という仮説に行き着く。
あぁ、最初の小石1つで吊り天井が動いた仕掛けかね?
見張りの足元に仕掛けのスイッチが隠れている筈だ。
自分で石を投げて、同時にスイッチを入れる。
これで『間違ったタイルの床を踏めば死ぬ。』という死のプレッシャーを与えると同時に、他の可能性。正解への思考の阻害を行える。
と言うわけで、普通に歩いたシェリー君は吊り天井に潰される事は無く、串刺しにもされずに、洞窟の奥へと無事に歩を進めていった。
あのタイルの廊下を抜けて、上り、下り、右、左と途中幾つかの小さな分かれ道が有るものの、代わり映えしない洞窟の通路を歩く。
奥に向かうほどに徐々に空気が熱気を帯び、澱み、それを吸い込んだ肺が不快な刺激臭を感じて呼吸を拒否し始める。
熱気と刺激臭が最高潮になった頃、通路が途切れ、一際明るい光がそこから漏れ出てきた。
慌てず、自然と、疑われようの無い様に歩を進め、光の元へと辿り着いた。
「成る程。如何にもな光景だ。」
「………………………………。」
呆れる私。
沈黙するシェリー君。
開けた場所から見えた景色を見た2人の感想であった。
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