特別講義第2弾 始まり

「一月程前の話。この村に幾十人の山賊だか何だかがいきなりやって来て、そいつらは『食い物と人手を寄越せ。』といってこの村を襲ったんだ。しかも、『逆らおうとした罰だ。』といって村に火を着け、そこらの家を叩き壊して、若者と食料を掻っ攫っていった。」

つまり、あの建物の惨状はそう言う事だ。

そこらの建物の焼け跡や崩壊の人為的な破壊の痕跡。それの犯人が山賊達。

「それからというもの、何か有る度有る度『食い物を寄越せ』『金目の物を寄越せ』と恫喝してきて…………」

村長は肩を落とし、背中を曲げて項垂れる。

「悪いことは言わない。シェリーちゃん、ここは危ない。真っ直ぐ帰りなさい。」

忠告をするが、私にはその言葉が無駄なのは目に見えている。

というか、シェリー君が帰れと言われて、『言われてはいそうですか。』と言わない事は知っている筈だ。

シェリー君は心根こそ優しく、それでいて甘いが、だからと言って悪逆非道を許す様な少女では無い。

ましてや自分の故郷を狙われて、世話になったと事有る毎に私にこぼしていたシェリー君は、その世話になった人々を放って、黙って帰れるような薄情者では無い。

結末が解っていながらそんな事を言うとは…………………………。


「お断りいたします。」


ほら見た事か。予想通り。

全く、丁度良い練習には成るだろうが…………。シェリー君も危ういな。

「自分の故郷と人々が危機に曝されていると知っていて『危険だから逃げなさい。』『はいそうですか逃げます。』という訳にはいきません。

お話を詳しく聞かせて頂けませんか?」

言葉遣いは冷静かつ静かだが、そこには有無を言わせない気迫が有った。

随分なやる気だが、どうかね?

状況はシェリー君が予想しているより相当悪いものだ。

難易度はジヘンの街の襲撃なんかの比では無い。

まぁ、といっても。私にとっては大した差は無いがね。

「教授、教授の予定が少し狂うかもしれませんが、構いませんか?」

目と言葉には鋭さが有った。

真剣そのもの。

まぁ、私にとってその程度は予定の範疇。知っていたさ。

「では、始めるとしようか。特別講義の第二弾と行こう。」

決定した。

シェリー君の特別講義の第二弾はこの村を襲う連中の排除。そして、その根本の始末、だな。

では初めに……………

「爺!爺出て来い!」

家の外から怒鳴り声が響いて来た。

「先ずは、招かれざる客を如何にかせねばなるまい。」

荷物、熊、そしてシェリー君を隠して誤魔化す?隠れるのは難しいと考えるだろう。

しかし、ここで見つかっては面倒な事になる。

「どうするかね?返り討ち?それとも大人しく捕まるかね?」

「いえ、ここは一度、隠れて様子を見ます。」

一番難しい方法だ。が、それが一番良い方法だ。

今外に居るのは一人。〆るのも良いが、荒事は避けたい。

大人しく捕まるのは何も知らないであろうシェリー君にとっては悪手。

どうする?

「済まないシェリーちゃん。何とか誤魔化すからじっとしていて欲しい。」

蒼白な村長は外へと出て行った。

またあの命乞いをする気かね?

……………………………全く、最悪手だ。


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