小物

「食いモンを出せ!500食、キッチリな!」

外から声が聞こえる。

「申し訳ありません。もう私共には明日食べる物さえ有りません、どうかご慈悲を下さいませ。」

家の外で命乞い宜しく懇願する声が聞こえる。

「黙れ爺!寄越せと言った!異論は認めない!お前らに拒否権なんざ無ぇ!」

全く、こうなる事が、相手が逆上する事など眼に見えて解っている筈だというのに………。

「本当に!無い物は無いのです!

以前に申し上げた通り、渡せるだけの食物は蓄えも含めて全てお渡ししました。

村人の若者だって皆そちらのお手伝いをさせております。

どうか、どうかもう勘弁して下さい!」

「嘘吐け!未だお前ら爺と餓鬼は死んでねぇ!未だ食いモンをどっかに隠してんだろう!」

ガッ!

蹴りを加えたのだろうか?足音がそこいらを動き回る音が聞こえる。

「ふざけんな!何処にもねぇじゃねぇか!」

さっきからそう言っている。この状況を見て一体どこに食物を見出すのかね?

ただ、この手の輩はだからと言って出て行く手合いでは無い。

「だから有りません。どうか今回はお帰り下さい!」

「だからって『はいそうですか』で帰るかっての!オィ、お前ん家は何かねぇのか⁉」

矢張り来た。大人しくして居れば自然とここに来るだろうさ。

「お待ち下さい!あそこには何も有りません。」

いきなり語気が変った。

「んんー?どういう事だ?何でそこだけ止めようとするんだ?

…………そこに………何か隠してんな!」

ほら、嗅ぎ付けられた。

この手の輩がうら若き乙女を捕まえて紳士的に、丁重にもてなす等冗談でもあり得ない。

隠すならもっとマシな方法を考えて欲しかったものだ。

「何も有りません!何も有りません!どうか堪忍を!」

「るせぇ!!有るか無いかは俺が見て決める!邪魔すんな!」

ずるずると重いものを引き摺る音の後、村長の「あっ!」という声の後に乱暴に足を踏み鳴らす音が響いた。

バン!!

家の扉が乱暴に開け放たれる。 「何処だぁ!?何処に隠しやがった!?」

襤褸ボロの革鎧に身を包み、汚れと錆びだらけの剣を腰に差した人相の悪い男が入ってきた。と、そんなことを考えるや否や……………………………………… バキバキ パリーン!! ガシャガシャ バンバンバン!!

そこらの家財や家の壁や床をひっくり返す、叩き割る、乱暴に叩く、ひっぺ返す…………兎に角荒らし回り始めた。

随分(頭の)育ちの悪い犯罪者だ。

未だ猫の方が行儀が良いし、効率が良い。


「クソが、何もねぇ・・・・じゃねぇか・・・・!!」

脇腹を押さえながら追いかけて来た村長を見て悪態をつく。

「!?」

村長は居る筈のシェリー君が居ないのを見て、不思議に思いながらも安堵していた。

流石に呑気に座って待つほどシェリー君は愚かではない。

「おぃ爺!!俺に散々手間掛けさせて無駄骨折らせるなんていー度胸してんな!」

ジリギリギリギリザリン!

腰の薄汚い剣を抜くと、村長に向けて錆びだらけの切っ先を突きつける。手入れがなされていないのか、抜刀がひどく重そうだ。

「ひっ!!」

体を硬直させながら腰を抜かす村長。

「食い物を寄越せ、でなけりゃお前らに用は無い。死ねよ。」

恐怖の溢れた顔に錆びだらけの剣を突き付け笑う男。

「ッッッッッ!!!!!!!!!」

「アーハハハハッ!!その顔!無様に顔をぐちゃぐちゃにして泣くその顔!

サイッコーだよな。」

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