惨憺たる帰省

笑えないな。

ここまで卑屈に負け犬根性が染みついた人間を見せられては笑えない。

シェリー君に至っては、道中の度重なるショック+今のが止めになって一瞬固まった後、我に返って荷物もそのままに村人へと駆け寄った。

「村長!」

「嘘偽り無く、誓って何も無いのです!」

「村長!!」

「食料は全てお渡ししました。男手も私のような老骨以外は全員出しました。家財道具も薪も全てお渡ししました。」

「村長!」

「今年の冬さえ最早生き延びられるかも解りません。どうか…どうか勘弁を!!」

震えたまま自分が跪いている相手を確認もせずに跪いて、そのまま息もつかせない弱者剥き出しの謝罪。それに加えて同情と容赦の懇願。

全く、何が起きているか厭と言うほど解ってしまう。


「落ち着いて下さい、デビアス村長!!私です。シェリーです。

アールブルー学園から帰ってきたこの村のシェリー=モリアーティーです!」

それを聞いて震えながら跪いていた村人。デビアスと呼ばれた男が震えたまま、恐る恐る頭を上げてシェリー君を見上げた。

「シェリー…ちゃん?」

震えが止まった。

「お久しぶりです。デビアス村長。」

「シェリーちゃん!随分会わない内にこんなに大きくなって!!」

「村長もお変わり無い……ようで。」

あー…やはり変わり有るのだな。

村長と呼ばれた男は、白い髭が頬全体を覆い、背中がくの字・・・に曲がって背骨が折れて背中から飛び出したようになっている老人だった。

顔は日焼けして黒くなり、白い髭が対称的だ。

しかし、この老人の特徴。最も特徴的なのはそこではない。

『怯えきった小動物の様』・『諦めた養豚場の豚』

そんな表現がお似合いな顔であった。

「村長!ここは、村は一体どうしたと言うのですか?

私の居ない間に何が起こったと言うのですか?」




「そうか………夏休みで…………ご苦労だったな。」

沼地の真ん中に小島の様にポツンとある村。村長の家はその奥にあった。

招かれたシェリー君は荷物+熊を抱えてそちらへ向かった。

村長の家、と言っても、お世辞にも大して立派ではない。

元はこの辺の土を使った土壁の、木と土のハイブリッドの小綺麗な家だったのだろう。が、手入れがされていない所為で、外の壁はひび割れ、仲も埃だらけで柱や天井の梁に蜘蛛の巣が張っている。

「いいえ、それよりも村長、一体これは何が有ったのですか?

ここ数年、異常気象や飢饉なんて聞きませんでしたが、これは一体………あの光景は何ですか?…………何が起きたのですか?」

道中も相当くたびれ、さっき迄ショックを受けていたシェリー君が蘇りつつある。

村を横断する時に見た光景。

物的な状況。そして奇妙な点。

火事で焼けた建物がちらほらとあった。

点在していたから延焼や飛び火という事は考え辛い。

しかも、どれもこれも痕跡を見る限り、焼けた期間はほぼ同時期、しかも最近だ。要は『ここ最近、時間的間が空かずに、同じ村の中で何度も火事が起きた。』という事だ。

倒壊した建物もあった。

砕けた瓦礫の欠片は建物の構造上、自然に倒壊すべきでない場所が砕けていた。自然倒壊では先ず壊れるべき末端部分や構造上重要でない部分が無傷ないしは軽微な損傷なのに、自然倒壊で最後まで残るべき頑丈な大黒柱や壁や梁が『折れている。』ではなく『切断されていた。』。

放置して壊れた訳でなく、意図的に壊された訳だ。

村人の状況。そして、奇妙な点。

こちらは様式が違えど用意に予想が出来る建造物と違って個体差が激しい為普段との比較は一応出来ない。要は、本来は奇妙さを見出すのは困難である。と言いたい訳だ。


が、


老人達は生きていながら中身が抜けて朽ち果てた樹木となっていた。

生気が無く、置物の様に見られてもおかしくはない。

子ども達は空を見ている。が、その眼に映っているのはそらではなくから。何も見るべきものが無いからそらをただただ無意味に見ているだけ。といった具合。

こんなのが日常であると思うかね?否だ。あってたまるかだ。

何よりこの村のおかしい事。子どもと老人、偶に中年女性がちらほら。

働き盛りが居ない。

働き盛りの若い男女が何処にも見当たらない。

働き盛り故に働きに出ている?何処に?

丘の上から見渡した時には何も見えなかった。

さぁ、名探偵諸君はこれらの情報から何を見出すかね?

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