最悪な帰省

丘を下り、道無き道を歩いていく。

地面が酷くぬかるんでいる所為、そして、心労も有り、少しふらついている。

周囲が草木で覆われて視界が悪く、点在する森に入れば空も木々が遮り、昼だというのに夜の様に暗い。

馴れているであろう筈のシェリー君の足取りはふらつきだけでなく、重い。

精神的な足取りもあるだろうが、それ以上に環境の変化が有ったのだろう。先程からあちらこちらへ彷徨い歩いている。

目的地が何処だかは解るが、そこまでの最短距離を歩いていない。

故郷とは言え、道がそもそも無い事と、環境変化が、記憶との齟齬を起こして迷っているのだろう。

確実に近づいてはいるからナビゲーションは不要だろう。

が、故郷に辿り着いてもあまり良い状況にはならない。

何故そう言えるか?その理由は周囲にある。

周囲の状況へと感覚を向けると、沼地湿地と草木の他に何も無いのだ。

見えるのは先程も言った通り、草木と湿地と沼地、それと小石や岩が有る程度。

聞こえるのは風に吹かれる木々のギシギシという気味の悪い音。

そう、生き物の気配が無い。

本来なら聞こえて然るべき小鳥のさえずりや生き物の動く音が無い。

観察すれば見える、隠れているものの動きが見て取れない。

そう、不自然なまでに静かなのである。

そして…………覚えているだろうか?これによく似た状況に最近出会ったばかりの筈だ。

そう。今、シェリー君から放たれる陰鬱な空気を読んで、黙って大人しい荷物となっている熊に出会った時、より正確に言えばあの怪物に出会った時の状況の再来なのである。

周囲の生き物の気配が無く、不自然に静かなこの状況。それが何を指し示すかは想像に難くない。

更にこの不穏さに更なる悪い情報を言えば、あちこちで折れている木である。

いくら枯れているとはいえ、人間の胴体より明らかに太い木がへし折られている。

それも、自然に折れた訳ではなく、大きめの、切れ味の鈍い刃物で無理矢理削り切ったような痕跡、太いヤスリで削ったような、太い綱や縄の様な何かを巻きつけて削り切ったような奇妙な折れ痕………………………これらは雨風雷等の天災では到底起こり得ない現象だ。

止めに、

そこら中の木々に、雷によって出来たものでは無い僅かな焦げ跡や、短剣や狩猟用では無い刃物で切り付けられた跡がある。

さぁ、シェリー君。君が何かを為そうと言うのなら、あの監獄を生き抜いて、荒唐無稽だと他から嗤われる様な理想を現実へと、実現を求めるのであれば、これしきは如何にかせねばならない。

無論、今は私が君に知恵を貸そう、手を貸そう、理不尽を越えるのであれば、私は理不尽を越え、砕く理不尽を…………与えよう。

さぁ、若人よ進め。老骨は喜んでその歩みの助になろう。

「………………………………」

「ガゥ。」

荷物だった熊が我慢の限界とばかりに荷物から飛び出してテクテクと目の前の目的地に歩き出す。

帰省して一番に見せられる光景がコレか……………。

目の前に広がるのは廃墟の如き村。

立派では無いが質素な家は残骸となって遺って在る。

村の境の柵は蹴破られ、これまた残骸として在るのみ。

しかし、そこには確実に人が住んでいた。


が、


「お許し下さい!お許し下さい!もう差し上げられる物なぞ在りません!」

人の気配に気付いて廃墟建物から出て来た村人は怯え切って、来訪者の顔も確かめずに跪いて来た。

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