かいてきなたび 29

『俺らみたいな奴等』か………………。

まるで出会ったばかりのシェリー君の様な事を言う。

私としては、シェリー君は助けたが、この三人まで助ける義理は無い。

が、敢えて言うので有れば、愚かと言わざるを得ない。

『こうする他無い』?『仕方無い』?『自分みたいな』?ハハハハハハハハハハハハ!笑えるな!

私から言わせれば、勝ちと負けが存在するものならば、正解と不正解が存在する問題であれば、絶対に正解勝ちを導き出せる。

この世の全てに勝てる余地が存在する。という事だ。

が、かと言って、私は自分以外の人間に同じ事を強制はしない。

『諦めなければ絶対に勝てる。努力は絶対報われる。』とは言わない。

ただ、『たとえ絶対に勝てる力を持っていようが、諦めたら負けるしか無い。永遠に報われる事は無い。』

逃げるのは良い。構わない。

勝てない闘いに無駄に労力を割くのは得策ではない。戦略的撤退として有効足り得る。

が、諦めはそうではない。

諦めた時点で君達は醜く堕ちていく。

君達は地獄への下り坂を転がっているだけだ。

未来は無い。計算するまでも無く。

直ぐに破綻する。見ての通り。

まぁ、私には関係が無いからどうでも良いのだがね。

ただ、一つ訂正したいことが有るとしたら………。

『シェリーちゃんみたいな恵まれた環境なんて用意されてねぇ』

この一点だ。

勘違いも甚だしい。

笑え過ぎてモノも言えない。

シェリー君が恵まれている?馬鹿も休み休み言え。

監獄に閉じ込められ、看守は彼女を人とも思わず、同じ虜囚さえも毒牙を剥き、命さえも脅かす。

はっきり言おう、味方も居ない、支援も無い、逃げ場の無い所で殺人鬼幾百と延々闘い続け、生き残る事と同義だ。

お前達は何故シェリー君があそこまで感情露わに喜んでいたか何故解らない?

楽しかったからだ、嬉しかったからだ、シェリー君の日常には無い、仲間や笑いや楽しい食事という非日常が有ったからだ。

大男の言ったことは、たった独りで、無慈悲で、理不尽で、自分より圧倒的に強大な怪物の巣窟で必死に生き続けたシェリー君への冒涜に他ならない。

……………本来なら、私がここで出て、三人を蹴散らし、馬車を奪って見捨てていきたいところだが…………今回は少し訳が違う。

それは、先程シェリー君が馬車を準備していた時にさかのぼる。



《回想開始》

「教授…………」

重々しく、辛そうな顔をしながらシェリー君は私を呼んだ。

それは賊との大立ち回りから来る心労ではない事は知っている。

「何かね?シェリー君?」

何も知らないふりをして敢えて問いかける。

「…………これから、少しの間、何かあっても私と交代しないで頂けますか?」

いきなり突飛な質問だ。

本来ならば、何を意図してシェリー君が言っているのかを知らなければ、その言葉の理由を根掘り葉掘り訊くだろう。

「良いだろう。」

即答した。

「有り難う御座います………………。」

《回想終了》

シェリー君はその後、馬車をあれこれと準備していた。

考えている。

決着をつけようとしている。

覚悟している。

それが解った。

だから、私は今、敢えて直接的に何もせずに傍観をしている。

さぁ、見せて貰おう。

理不尽を諦め、甘受する人間の姿を。

理不尽に囲まれながらも必死に足掻いて、抵抗して、闘う人間の姿を。


シェリー君の思いを。見せて貰おう。

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