かいてきなたび 8
「きょ、教授!?」
いきなりで動揺するシェリー君。
「言っただろう?『特別講義だ。』とね。
さぁ、動きは網と重石で鈍くなっている。
闇の中の猛獣を、君の手で、狩り取るんだ。」
折角の机上を飛び出しての課外講義。
普段の様に受動的なだけでは意味が無い。
普段出来無い経験を、これを機にやって貰う。
文字通り、命が危険に曝される状況に、身を置いて、打破して貰う。
無論、難易度は高い。
網と重石で鈍くなっているとは言え、この一帯の生物を食い尽くす事が出来る大物だ。
不意を突かれれば一瞬で絶命する。
しかし、この絶体絶命の最中、シェリー君にはやって貰わねばならない。
前に、シェリー君のペースと言った。そして、これがシェリー君のペースだと私は分析した。
彼女には、この状況を打破出来るだけの力がある。
相手があの
しかし、この環境において、それら完全犯罪性は意味を成さない。
狩るか狩られるか。
弱肉強食故に単純。死の危険は隣に在れど、退学の危険は皆無。
この夏祭り中に彼女には爆発的に成長して貰う必要がある。
『叡智』という、獰猛で在りながら狡猾な怪物を我が物にする切っ掛けを掴んで貰う。
さぁ、この過酷な環境下、死中に活を求め、見出だせるかね?
「シェリー!加勢する!
あんたらは馬車の無事を!!」
「解りやした!!」
「はいよぉ!」
三人組が不用意に動こうとする。
「動かないで!!」
シェリー君が一喝する。
それに怯んだ三人が動きを止める。
「焚き火に照らされて私達は相手から見えています。
逆に、我々は光の所為で闇の中が見えません。
暗闇に慣れていない今、下手に動けば闇の中で確実に襲われます。絶対に動かないで下さい!」
正解だ。
今、猛獣が迂闊にこちらに飛び込まないのは、我々が火を持っている事、複数人である事、投網で体の動きが制限されている事が挙げられる。
二手に分かれ、一方が火から離れたならば、途端に離れた方が先に襲われ、人数の利が半減したところでもう片方も襲われていただろう。
この場合、待ち伏せし、向こうが痺れを切らし動き出した所でカウンターを喰らわせるのが最適だ。
が、
「そういう訳にも行かない!あんた達!」
赤毛がそれを無視して二人に指示を出す。
「へぇ。」
「はぁぃ。」
男達二人が駆けていく。
馬鹿な、わざわざ死にに行くとは……
ダッ!
走り出したのは二人だけでは無かった。
シェリー君もだ。
まぁ……………予想出来ていた。
本来ならば肉体の制御を奪って止め、男二人が餌になっている所で猛獣を狙い撃ちしたいところだが、
そうもいくまい。
男二人はどうでもいいが、シェリー君の意志は尊重したい。
何より、そんな事をしてシェリー君の精神が無事でいられるとは思わない。
このまま突っ込む。それ自体はこの状況を打破する上では最適解の一つだが、シェリー君に完全にその手法を実行するのは困難を極めるだろう。
仕方ない。少し、手伝ってあげよう。
この状況下、走って行くことの意味を知りながら、死の危険に飛び込むことを承知で行く彼女の強欲さと一歩間違えれば蛮勇に敬意を表し、手伝おう。
「シェリー君、電気の魔法を君は使えるね?」
「はい、ただ、多少痺れはしますが、大きな生物を動けないレベルで感電させるのは無理です。」
「十分だ。私の言う場所に撃ちなさい。」
「………解りました。」
私には実用に足る魔法は使えない。
『電撃』
シェリー君の指先がビリビリと音を立て、光り、
「細男と大男の右側、角度は20°」
「解りました。」
紫電の針が夜の闇を裂いた。
実用に足る魔法なんて使えない。
その代わり、生物の構造については熟知していた。
「ウルゥルルル!」
闇の中から苦悶の叫びが聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます