かいてきなたび 3

ガタンゴトンと馬車は行く。




馬はゆっくりゆっくり歩を進め、地面を削って草原の合間を進む。




代わる代わる御者が交替し………馬車からは談笑の声が聞こえ、何事も無い平和が、学園内では絶対に有り得ないであろう、経験出来ないであろう日常がそこには有った。








三人組ともすっかり打ち解け、今は馬車を止めて昼食中。


積み荷の中から林檎を引っ張り出して、シェリー君も御相伴に預かっていた。








「皆さんはこの先に何を売りに行くのですか?」


「あぁ、馬車に積んである荷をな、ちょこっと捌いて………で、仕事が終わったらテキトーにそこいらで羽でも伸ばそうか?それともその金を元手に大きな仕事でもするか?って言ってんのさ。」


「また仕事する気ですかい?まぁ、それはそれでいいですが……」


「それよりもよぉ、やっぱり俺は自堕落が良いぜぇ……よぉ。」


「馬鹿言ってんじゃ無いよ!働いて稼ぐ!それを元に更に大きいな仕事に繋げる。


これを続けていきゃぁ馬車だって馬だって良いのに出来んのさ!」


「まぁ、鈍い馬車よりぁ速い方が良いですが……」


「まぁ、姐さんが言うんなら俺も付いて行きますがぁよぉ。」


「何言ってんのさ?アンタらこの娘と違って頭が無いだろう!なら体動かして働きな!一生扱き使ってやるから!覚悟しな!それとも………勉強するかい?」


「いきやす。一生働きやす!」


「やりやすよぉ!」




三人のやり取りが微笑ましい。


それを見ていたシェリー君の頬が緩む。


「ふふふ……皆さん、仲がおよろしいんですね。」




「何言ってんだい?ったく……」


「いや、それほどでも」


「悪い気ぁ、しねぇよぉ。」




三者三様。しかし、その顔にはまんざらでも無いと書いてあった。




「さぁ!サッサと行くよ!」


「解りやした。」


「はぁぃ。」


「では……今度は私が御者をやります。」


シェリー君が手を挙げた。


「?できんのかい?」


「大丈夫ですかい?」


「馬なんて扱えんのかよぉ?」




「大丈夫です!任せて下さい!


 私だけ座ってる訳にもいきませんので!」


私が指示したさ。


シェリー君には色々やって貰おうかと思ってね。


そのうちの一つが乗馬や馬車の扱いに慣れて貰う事さ。


馬を扱えれば移動時間を短縮したり、人間には出せない運動エネルギーを出すことが出来る。


そうすれば出来る事が100も1000も増えていくからね。


なぁに、最初は私が憑依して運転をするさ。


徐々に私からシェリー君に任せ、最終的にはシェリー君一人で乗りこなして貰おう。


「良いじゃないか、やってごらん。」


「気を付けて下せぇ。」


「怪我しないでよぉ。」


「有り難う御座います。では、先に準備をしてきます。」


そう言って少し離れた馬に近付いていく。


「そういう訳で、もう少しだけ、宜しくお願いします。」


休んでいた馬を撫でる。


中々疲労はしているようだが、毛並みと言い、肉の付き方と言い、申し分ない馬だ。


撫でられている所を見る限り、中々大人しそうで練習にはもってこいだ。


「では、先ずは私が手本を見せる。


よく見ておきたまえ。」


「解りました。教授。」






フッ






 馬車がゆっくりと走り出していった。






 ガタンゴトン・ガタンゴトン、馬車は、重く、ゆっくり道を進んでいった。








穏やかで、平和な日常。


























しかし、変化は訪れるものだ。


平穏には波乱、静寂には轟音。それらが必ずやって来る。










平穏や平和だけが持続する訳が無い。


平和な日常や旅はその次の波乱へと繋がっていく。






覚悟をしたまえシェリー君。


これは講義だ。


君にはあの地獄を生き抜くべく、相応の試練を受けて貰うよ。






馬車を操りながらそんな事を考えているとは、私以外の誰もが知る由も無かった。








ガタンゴトン・ガタンゴトン、馬車は、重く、ゆっくり道を進んでいった。

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