第80話 サクラ、サク
「はぁ、どこをどうしたらいいのか、わからないんだけど…。」
「僕だってやったことないから、わからないよ――引っ越しの荷造りなんて。」
友香は第一志望の地元から少し離れた県の国立大学に合格したが、自宅から通えないので下宿することになった。
どの都道府県にも一つは国立大学があるけど、地元の国立大学はランクが高い。
上手い選択だと思うけどあまり会えなくなるのかと思うと寂しい。
僕は地元の私立B大学。
「お二人とも、もっとテキパキしてください。その調子だと日が暮れて、夜が明けますよ。」
「ごめん、チカちゃん。」
友香の部活の後輩が見事な手つきで梱包していく。
「手伝ってくれるお礼は本当に私の制服とか参考書でいいの?」
「はい、私の妹、四月から多分同じ高校に入るので助かります。あっ体育館用シューズもいただいていいですか?」
「使えそうなものは何でも持って行ってね。」
それにしてもたくさんあるな。
友香のお母さんは持って行く台所用品を買いに行ってるから、まだ増えるのだろう。
「友香、タオルこんなに持って行く必要ある?」
「だって、友達とか泊りに来るかもしれないでしょ。」
「……必要だね。持って行った方がいいよ。」
三人がかりで奮闘して荷造りに何とか目星が付き、チカちゃんという後輩は大量の戦利品と共に帰って行った。
持って行ってくれるとお互いに助かるな。
そういえば、優斗に文遣いのお礼をしてなかったっけ。
僕の参考書とかいるかな。友香のは後輩が持って行ったようだし。
「友香、優斗家にいる?」
「いるよ。呼んでこようか。」
「いいよ、一緒に行くから。」
友香が優斗の部屋のドアをノックする。
「優斗、あのさ、」
「なんだよ姉ちゃん、オレは手伝わないよ忙しいんだから。」
「優斗、僕だけど。ちょっといい?」
「先輩っ!全く忙しくなんかありません!何でしょうか。」
優斗が素早く部屋から出てくる。
優斗は爽やかな笑顔で僕に挨拶して、友香はこいつ……って顔してる。
「あのさ、以前文遣いをしてもらっただろ。お礼に僕の参考書とか制服とか欲しいものがあったらあげようかと…。」
「喜んでいただきます!でも、オレ一人でもらっちゃっていいのかなあ。」
相変わらず優斗は人がいいな。
黙ってればわからないのに友達のこと大事にしてる。
「後で勇一や翔太と分ければいいだろ。」
こうして優斗は僕の参考書や制服や、まだ着られる卓球の練習着まで根こそぎ持って行った。
後で聞いたところによると戦利品の分け前について一年生で揉めているのを部長の前田に見つかり、部内ランキング戦で勝った人から欲しいものをゲットしたようだ。
品数が足りなくて難関大学にしれっと合格した、松永の家にも後輩たちが押し掛けてやっぱり根こそぎ持っていかれたとラインがきた。
荒木からはラインが来なかったが。
「白状します。金城先輩の練習着はこっそり自分のものにしました――。優斗」
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