第79話 ・・・は私から

 センター試験も終わって、私立大学の入試が始まる。

 私とあきらは同じ予備校に通っていた。

 最近は自分のスケジュールを最優先することにしていてすれ違ってばかりだったけど、今日は予備校に行くのがお互い最終日だったので一緒に帰ろうって約束していた。


「あと少しだね。体に気を付けて頑張ろう、友香。」


「あきらこそ。それにいつも送ってくれてありがとう。」


 二人ともマスクをしていてもごもご言ってるけど、大体わかる。


「…………。」


「えっ?なんて言ったの?もう一回言って。」


 あと少しで家に着くという時、あきらが何か言ったけどうつむいていてよく聞き取れなかった。


 あきらは私を見るとマスクを外す。


「あのさ、ちょっと内緒の話なんだけど…。」


 秘密を打ち明けるようにあきらは私の耳に顔を寄せる。


「友香のこと、愛してるよ。」


 え、好きとか大好きって言われたことはあったけど、愛してるは初めて言われた……。

 戸惑っている私にあきらはキスしてきた。

 生の唇の感触じゃなくて私のマスクを隔てて確かにあきらの唇が重なった。

 マスク越しのキス……。


 えーっ今のなにー?!

 心が完全に乙女になった私はびっくり顔であきらを見る。


「ごめん、受験終わってないけどフライングした。」


「……こっちこそ、自分の都合を押し付けてごめんなさい。でも、受験が終わったらちゃんと謝るつもりだったのよ。」


 受験が終わるまでラブラブしないってかたくなだった私。

 素直になった方がいい時は素直になろう。


「私だって愛してるんだから。」


 私は自分のマスクを外してあきらの顔に激突した――。

 ごめん、あきら……。

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