第73話 We are あみものboys.
「手芸の守護神、レッド王子参上!」
「レディを美しくするのが僕らの使命、ブルー王子!」
「心に潤いを、グリーン王子!」
「「「We are あみものboys!」」」
テレビアニメをチェックしていた優斗が決心した様子で頷く。
「翔太、次の仮装卓球大会はやっぱりあみものboysにしよう。」
「動きやすくて知名度もあるしいいアイディアだろ?ただ問題なのは初めはあみものboy一人だったのが、人気が出るにしたがって、だんだん増えて三人組になってるところだな。」
「三人そろった方が見栄えがするから勇一も誘おうよ。」
「あいつ、こういうの出てくれるかなあ。結構真面目で融通が利かないとこあるけど。」
「レース編み仲間なんだからまず勇一を誘って、ダメなら他のやつを当たろう。」
「N市の仮装卓球大会?聞いたことあるなぁ。いいよ、一緒に出ても。」
勇一は拍子抜けするほどあっさりとOKしてくれた。
「ホント?あの、実は仮装はあみものboysにしようと思ってるけど、それでも大丈夫か。」
「いいんじゃないの。三人がかぶってるニット帽はオレに任せろよ。オレとミサキさんで編んどくから。で、だれがどの色やるの?」
「ええと、勇一がレッドでボクがブルー、優斗がグリーンでどう?」
「意外だな。勇一ってあみものboysに詳しいんだね。」
「ま、まあね、妹がいるから……。下の服はアニメに似た感じのニット物でいいんだな。」
こうしてボクたちはあみものboysとして参戦することになった。
仮装大会当日
「色や形がアニメとそっくりじゃないか、これ、すごい!」
出来上がったニット帽のクオリティがすごい。
ボクと優斗が感嘆している横で勇一が、はおっていたジャージを脱ぐ。
「……勇一、お前、……。」
「えっ、衣装変?レッドはこれでいいんだろ。」
「その白のニット、模様編みがアニメとそっくりじゃないか!」
「わかる?ミサキさんが十日で作ってくれたんだよ。」
嬉しそうに勇一は胸を張る。
三人でニット帽をかぶって棒針やかぎ針、レース針をかまえると、あみものboysの出来上がりだ。
レッド王子の勇一は必殺技で投げつける赤色の毛糸まで持参している。
今回の仮装ポイントは高得点だろう。
手ごたえを感じているボク達に、後ろからためらいがちな声がかかる。
「あの、私と写真を取ってください……。」
可愛い女の子の声に、喜びにあふれた三人組は一斉に振り向く。
「「「恵ちゃん!」」」
「いいえ、私はあみものクイーン。」
卓球少女の恵ちゃんがあみものboysにでてくる王子たちのヒロイン、あみものクイーンの変身後の光沢のあるスーツ姿で両手を腰に当てるポーズを決めて立っていた。
後ろにはレッド王子のお兄ちゃん、ブルー王子のお父さん、グリーン王子のお母さんも、同じく変身後の姿で登場している。
一体この一家はどうなっているのか……。
卓球はもちろん、衣装でもこの家族には負けている……。
唯一勝てるのは、年恰好がボク達の方がアニメに近いくらいだろう。
恵ちゃんはボク達の写真を何枚も撮りまくり、
「あの、これにサインしてください。」
と、卓球ノート(試合の反省とか課題を書くノート)を差し出してお願いしてきた。
「……翔太、この場合、本名を書くのか、グリーン王子ってかくのかどっちが正解なんだ?」
「ボク今、ブルー王子だから。レッド王子、どう思う?」
「……さぁ……大体、俺たちの本名のサインなんているか?」
「両方とも、全部かいて下さい!」
三人でサインしたノートを大切に抱きしめた恵ちゃんに、優斗は微笑みながら握手した。
「あみものクイーン、卓球も応援しているよ。クイーンといつかミックスダブルス(男女ペア)を組みたいな。」
恵ちゃんはパァァと頬を染めて、可愛くはにかんでいた。
優斗、小学校二年生をたぶらかすなよ。一歩間違えれば犯罪だぞ。
この試合後、恵ちゃんは驚異的なスピードで上達していく。
王子様がミックスダブルスのペアを探しに来た時に、気づいてもらって、そして選んでもらえるように――。
後年、クイーンはあみもの王子たちが「あの時、恵ちゃんのサイン貰っとけばよかった。」と後悔するほど有名な選手になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます