第72話 登場!白馬に乗った王子様


 白馬に乗った王子様は待っていても絶対に私の前には現れない。

 だったら、自分で王子様を捕まえて、白馬に乗せればいいのよ――。


 今日の受験勉強息抜きデートは乗馬。

 流鏑馬も見たかったけど、そんなに遊んではいられない。

 またアドルファス号に乗れるといいな。

 流鏑馬おじさまの安井さんと、私を担当した……名前忘れちゃったけど、ぽっちゃりしたおじさんにも会えるかな。


「こんにちはー、予約した一色です。今日はお願いします。」


「やあ、一色さん、久しぶりですね。」


 声を掛けてきたのはすらりとしたアラサーの素敵な男の人。

 顔も整っていて、乗馬王子様って感じだ。

 こんなカッコいい人いたら忘れるはずないのに、誰だっけ。

 あきらがちょっと嫌な顔をする。大丈夫、あきらの方が素敵よ。


「……すみません、どちらさまでしょうか。」


「えっ、忘れられちゃったの?去年アドルファス号に乗ったでしょ?大路だよ。」


「へっ、大路さん?あの、体が随分とシュッとしたというか、あの、」


 大路さんは私がわからなかったのを喜んでいるようだけど。


「ああ、流鏑馬の練習をしていたら結構大変で、一年で15㎏も痩せちゃってね。

 僕が流鏑馬やったら一色さん、ファン一号になってくれるって言ってたよね。」


「あきら、私の仲間がこんなところにもいたわ!(詳しくは愛すべき姑息な人々1 姑息なダイエット編をお読みください。)」


 あきらは私と大路さんをぬるい目で見る。



 あきらは安井さんの白馬に乗せてもらうが、残念ながらちょっとへっぴり腰だ。


「わぁ、思ったより高いね。」


 白馬に乗った王子様だ!しかも私の!こんなとこにいたのね。

 探してたら隣にいたんだ。青い鳥みたいに。

 写真撮っとこう!


「友香、絶対に人には見せないでね。」


「わかってるって、頼まれたって見せるもんですか。ちょっとこっちを向いてよ。背すじもっと伸ばして笑って。」


「注文が多いなぁ、こう?」


 ギャーかっこいいよ~。なになに、めっちゃ似合う。

 ピンチで逃げてる友香姫になって、白馬で走ってきたあきらにさっとかっさらわれて助けてもらいたい~。

 乗馬してる人って、何でみんなかっこよく見えるんだろう。


 私は前回同様アドルファス号に乗せてもらう。

 あきらとは別々の場所で体験させてもらってるけど、一緒に馬に乗って遠乗りできたらいいのに~。


「友香ってなんであんなに馬に乗りながらニヤニヤしてるんだろう。また何か、楽しい妄想してるな。」



 乗馬がすんで休憩していたら今から流鏑馬の衣装合わせをするというので、見せてもらうことにした。


「今年デビューするから思い切って装束を自腹で新調したんだ。」


 大路さんはご機嫌で新しい装束を広げて見せてくれる。


「わぁ、縹色はなだいろ(渋い青色)のこの衣装、綺麗!銀糸で刺しゅうしてあるこの菱形の模様もいいですね!きっと女子にモテモテですよ!」


 流鏑馬の装束の大路さんは、とても素敵だ。

 失礼だが去年のぽっちゃりしたあの人と、同一人物には見えない。


「写真撮ってもいいですか?ああ、私も着たい!」


「着てみるかね。私らのお古の装束で良ければ二人とも着てみなさい。若い人にもっと流鏑馬に興味を持ってもらいたいからね。」


 私が身もだえていると、安井さんが気軽な調子で許可してくれた。


「えっ、僕はちょっと遠慮し」


「あきらも着てよ。今度こそお願いききます券使うわよ。」


「わかったよ……。」



 私は梔子くちなし色(渋い黄色)の装束で、難しいところを教えてもらいながらほぼ自分で装着することができた。

 はぁ、弓道着より素敵やん。

 あきらは完全に着せ替え人形だろうな。

 着付けをしてもらって出てくるのをワクワクしながら待つ。

 登場したあきらは、まるで戦国時代の武将の若君のようだ。

 メガネが時代と合わないかもしれないけど、かえって私は好き。


「なんて似合ってるの!青朽葉あおくちば色(渋い緑色)の装束が、まるであつらえたようよ!」


 よくカップルが、京都で着物デートしているけど、そのお似合い具合より、数段上だ。

 新品でなく中古の衣装のせいか、いつも着ています感を醸し出している。


「この装束でデートしたいよ!」


「友香が姫の衣装ならいいだろうけど、二人ともこの装束で?」


「もちろんよ!何言ってんの、これだから流鏑馬のかっこよさがわからない人は、

 まったく。」


 私とあきらは親友同士の若君、だけど本当は私は家の事情で男装している姫って

 設定で、流鏑馬の練習中に落馬しそうになった私を助けたあきらに、女ということがばれてしまう。『一色、お前、女だったのか!』『このことは秘密にしておいて、金城。』……ベタかな。


 妄想を楽しみながら、お宝写真を撮りまくっていると、安井さんから思いがけない提案をされる。


「今年のは出来てるけど、来年のポスターやチラシ用の写真撮影に協力してくれないかね。なに、メインは大路君が流鏑馬やってるとこを本番で撮るつもりなんだ。でも一人だと見栄えがしないし、わしらより若い人の方がいいだろうから、脇に君らの小さい写真を使いたいんだよ。」


「そんな、素人がとんでもない……。」


「そのかわりと言っちゃあ何だけど今日の乗馬体験代は無料にしておくよ。」


「…無料……。」


 あきらって見かけによらず無料、とかお得クーポンに弱いんだよね。


「いいじゃない、あきら。浮いたお金でまたクリスマスにスーパー銭湯に行こうよ。」



 こうして大路さんと一緒に撮影したが、安井さんがあきらにメガネを取れだのやっぱりかけろだの色々と注文をし、私には後ろ向きでちょっとだけ振り返ったポーズを要求するなど不穏な空気が漂った。

 予感は的中し次の年のポスターは大路さんの流鏑馬と、メガネをしてないあきらのアップ写真が中心で、ふちに小さく私が振り返った写真が採用されていた……。


 まぁ、お宝写真たくさんゲットしたから許す。

 そして翌年、もちろんそのポスターをゲットして部屋にはることになる。

 私と私以外の誰かさんたちも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る