第69話 雨宿り

 急に降り出した雨はあっという間に激しさを増した。

 アスファルトに叩きつけるように降る雨を眺めて私は帰るのを諦めた。

 雨宿りするために出ようとした駅ビルの中に引き返そうとして、走りこんできた金城君と目が合った――。


「片平さん、こんにちは。」


「金城君…。」


 金城君は傘を持っていたけど雨が激しくて髪が少し濡れている。

 相変わらずカッコイイ。

 でも、もう私に声を掛けないで欲しかったのに…。


「傘、持ってないの?僕のあげるよ。ビニールのだしそのうちやむだろうから。」


 私、樽に詰められて海流の速いところに放り込まれてシベリアに流れ着いて、

定住していたのに。

 優しくしないで。

 もしかして、シベリアに迎えに来てくれたのかなって誤解しちゃうじゃないの。


「遠慮しないで。雨に濡れて風邪を引いたら大変だよ。同じ受験生だろ。」


 私は金城君から傘を受け取る。

 そのとき、金城君の指に少し触れてしまう。

 まるでドラマのワンシーンのよう。

 BGMはショパンの雨だれでお願いするわ。


「あ、あの……。」



「あきらー!おまたせー!」


 出たわね!宿敵一色友香!なんなのよ、せっかくいいとこだったのに!


「ごめん、待った?」


「ううん、今来たとこ。」


「じゃあ行こうか。何あきら、傘持ってないの?私のに入れてあげる。」


「片平さん、傘返さなくていいから。さよなら。」


 金城君は一色さんから傘を受け取るとほとんどやみかけた雨の中を相合傘で通りへ出ていった。

 ねぇ、金城君、もしかして私のこと利用した?

 ううん、そんなことないよね。



「あきら、何で片平さんと一緒だったのよ。」


「たまたまだって。」


「肩が濡れるわよ。もっとこっちにくっついて。ねえ、傘持ってる手につかまってもいい?」


「うん、いいよ。(片平さんが絡むと友香は途端にスキンシップOKになるんだよな。上手いこといった。)」



「何よっ、金城君は女の価値がわからないバカな男で、後から死ぬほど後悔するわ!」


後ろで片平さんが負け犬の遠吠えしていたのを私たちは知らない。

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