第68話 受験生にオススメのんびりデート

「あきら、……私帰りたくない。」


「僕もだよ、友香。」


 私とあきらは膨大な量のマンガを前にして立ち尽くした。


 夏休みの終盤、一日ゆっくり受験勉強の息抜きにと、私はあきらとスーパー銭湯デートにやってきた。

 誘ったのは私。

 あきらはスーパー銭湯がお初らしくて、へ?って顔をしていたので以前貰った『お願いききます券』を使おうかと言ったら、使わなくていいよって言ってくれた。

 この日を楽しみに、ここ一週間は勉強ばかりしていたと言って……いいかも。

 ここのスーパー銭湯がリニューアルしてとてもよくなったと両親が言っていた

ので、ずっと行きたいと思っていた。

 受験生なので疲れるデートはNGだと、ここにしたけど大正解だわ。


「まずお風呂に入ってその後、このマンガコーナーで落ち合おうね。」


 速攻でお風呂に入ってマンガ読まないと!

 最近マンガは封印していたから読みたいのがたくさんある。



 炭酸風呂や、泡がブクブクしてるのとか、浴槽がいくつもあって全部にゆっくり浸かっているとのぼせるので、少し浸かっては次々と移動していく。

 外の野天風呂の大きなかめのようなお風呂が気に入った。

 全裸で外って野天風呂以外ないよね。開放感がハンパない。

 しかし、昔の大名の奥方でも、公家の姫でもこんな贅沢な湯船につかることはできなかっただろう。

 スーパー銭湯を考えた人ありがとうございました。



 お風呂を堪能して、作務衣のような館内着に着替える。

 髪を乾かすのももどかしく、マンガコーナーに突進する。

 えっ、あきらもういるじゃん。


「おまたせーっていうか、もうガッツリ読んでるね。」


「うん、このマンガとても気になってたんだよ。」


「あ、それ知ってる。優斗が持ってるから言ってくれたらよかったのに。」


「いや、受験生だからそんな甘い考えはダメだよ。今日だけは解禁するから、意地でも最後までここで読んでいくよ。」


 二人で並んで何も話さず死ぬ気でマンガを読み進めていく。

 読みたいマンガは何冊もあるけど、時間が限られている。

 国語の読解で鍛えた読むスピードがこんな所で生かせるとは!

 でもこんな速さでマンガを読みたくない気持ちと、一冊でも多く読みたい気持ち、さらには一冊でも多く読んでスーパー銭湯代のもとを少しでも取りたい気持ちで心が揺れる。

 のんびりしに来たはずなのに大変せわしないことになっていた。


 お食事処で急いでお昼を食べて再度マンガにトライする。

 二人の間に温度差があればこのデートはお勧めできないが、私達の目的は揺るがない。

 頼もしい相棒だ。あきらの気配は完全に消えている。



 絶対に読みたいマンガは読み終わった。

 ストーリーに感動し、充実感に浸っている場合ではない。

 次はできれば読みたいマンガか、私が知らなかったマンガを開拓したい!

 ふと、あきらのことを思い出して隣を見ると……。寝てる!

 ラッキー!

 フフフ、いいのかねこんな無防備な寝顔をさらして。

 しばらくの間、端正な知的メガネ君が眠れる美女、じなくて美男しているところを眺めて、それが自分の彼氏であることにこみあげてくるうれしさをかみしめていた。

 よし、写真撮っとくか。でも本人に無断でそんなことしたらいけないよね。


「ねえ、あきら、ちょっともたれて(写真撮って)いい?」


 都合の悪い部分は聞こえないくらいのささやき声で言っとく。

 我ながら姑息。


「う…ん、いいよ。」


 よっしゃー!OK貰いました。

 お宝写真、一枚ゲット――。

 私以外の人には絶対に見せないんだーえへへ。

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