第67話 優しさに泣ける

 地獄の接待試合から数日後、ボクたちが練習している体育館に金城先輩が顔を出し、前田先輩と何か話している。


「翔太、ちょっと。」


 声を掛けられて、先輩たちの方を見ると、金城先輩が優しく笑って、おいでおいでをしている。

 何だろう。褒められるようなことは無かったはずだけど……。


「翔太、前田から聞いたけど、М校との練習試合、頑張ったらしいな。」


「そんなことありません、コテンパンにやられました。」


「僕だってコテンパンだったから。でも、アドバイスもらったり、褒めちぎったりしたんだろう?それに、連君にハンカチを巻き上げられたんだって?」


「すみません、ボク嫌だって言ったのに、って先輩、何で知ってるんですか?」


 優斗の方を振り向くと、視線を逸らされる。

 はぁ、あいつ、余計なこと言いやがって……。


「連君はしょうがないやつだなあ。二つ年下から巻き上げるなんて。」


 そう言うと先輩はボクの頭にポスンと何かを載せた。


「新しいの、作ってきてやったよ。翔太はやっぱり緑が似合うと思って……。

おい、何泣いてんの?」

 

「先輩…ボク、先輩にこんなことしてもらう資格ありません。ボク、あの……。」


「一体どうしたんだよ、泣かなくてもいいじゃないか。大げさなやつだなあ。」


 優斗と勇一が心配して寄ってくる。


「巻き上げられただけなら良かったんですけど、実はボク……、先輩のハンカチとそっくり同じものを自分で作っていて、そっちを小森さんに渡したんです。だから先輩のハンカチは、ちゃんと持ってます。」


「「「何だって!!!」」」


 怒られるだろうと思っているボクに、金城先輩は笑って言う。


「よくやったよ、翔太。大体、連君が悪いんだからそれでいいよ。」


「本当ですか?ボクのしたこと許されます?」


「許すも許さないも、同じものならいいんじゃないの。向こうも気が付かなかったんだろ。そういう姑息なやり方、嫌いじゃないから。翔太はいつも周りの人間関係に気を配って、えらいと思うよ。ダブルスのパートナーの優斗のこともよくフォローしてるし。」


 うんうん、それで。もっと言ってください。


「今回のハンカチは、翔太のイニシャルSを入れてきたから翔太にやるよ。」


「先輩――。」


 ああ、生きていて良かった今日は――。

 優斗がいなかったら抱きつきたいくらいです!

 お姉さんに通報されると面倒なことになるからやめとかないと。



 金城先輩が帰った後、前田先輩に呼ばれる。


「翔太、次の接待試合に向けてダミーのハンカチを三枚ほど発注する。材料費は部費から出そう。」


 勇一がものすごい目でボクをにらんでくる。

 卓球でのことなら受け入れるが、いい加減にしてほしい。


「勇一のじゃダメですか?レースを控えさせますから。」


「できるのか?」


「やらせます。」


「なら任せる。金城先輩のとそっくりなやつだぞ。」


 それから、と言って前田先輩は厳しい目でボクを見る。


「イニシャルS入りの二枚目のハンカチを貰ったそうだな。」


「えっ?」


「オレの下の名前、知ってるよな。」


「前田…トル先輩……。」


「そう、そして他の二年の藤と伯、田そしてイジが、そのハンカチをかけて挑戦する。お前に拒否権はない。そうそう、ダミーを作らないように、それ寄こせ!」


「先輩、オレの名字も々木なんですけど。」


 勇一、混じってくるなよ。お前が前田先輩に言ったんじゃないのか。

 優斗、このこと金城先輩にチクって。


「ハンカチ争奪戦のことは他言無用だからな!!」


 前田先輩、小森さんより抜かりないな……。

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