第62話 花火大会 偽ファミリー

「人が多いからね。僕の後ろについてきて。」


 あきらが前に立って歩いてくれる。

 迷子のユカちゃんは、おんぶした背中ではしゃいでいる。

 頼もしく前を歩くあきらの後に私はついて行く。


 しかしこの時、私には大問題が発生していた。

 少し前から下駄の鼻緒がきつくて足が痛くなっていたのが激痛に変わっていた。 ユカちゃんの重さが加わったせいか。

 さらに、初めは楽勝だと思っていたおんぶも、だんだんしんどくなっていた。

 顔から汗が噴き出す。暑いしキツイ。まさに苦行。


「ちょっとあきら、待って。足が痛くて、あきらったらー!一人ですたすた行かないでよ!あきらー!」


「はい!」


 何かが浴衣のすそをつかむ感じがして下を見ると、4、5歳くらいの元気な男の子が私の浴衣をつかんでいる。

 誰かしら、この子。近所の知ってる子じゃないし。


「ボク、名前は……。」


「アキラ!」


 ひょえー!私があきらの名前を何回も叫んでるから、間違って来ちゃったのかな。そんな訳ないよね。迷子かな。どうしよう。

 ユカちゃんとアキラ君と三人で途方に暮れていたら、あきらが戻ってきてくれた。助かった。


「ごめん、速かった?あの……その男の子、誰?」


「あきら、戻ってきてくれたのね!この子も迷子みたいなの。アキラ君っていうのよ。」


「へっ?」


「私があきらを呼んでたら、この子がいたの。」


 開き直ったように笑うあきらに、私もつられて笑ってしまう。


「ハハ、いい名前だね。親を探しながら、みんなで迷子案内所まで行こう。」


 私は足の傷に絆創膏をはってユカちゃんをおんぶしなおす。

 あきらは親に気が付いてもらいやすいように、アキラ君を肩車する。


「わーい、たかいよ!」


「ちょっと、あんまり肩の上で動かないで。慣れてないんだから。」


 偽ファミリーが迷子案内所を目指す。

 はた目には微笑ましいかもしれないが、私もあきらも汗だくだ。

 優斗の言う通り、化粧をしなくて大正解だったわ。

 せっかく結った髪も、ユカちゃんが触ってゆるふわが崩れてきている。

 こんなところを水川夫妻や片平さんに見られたら……。


あきら!」


「ママ!パパ!」


「うちの子がすみませんでした。ありがとうございます。」


「見つかってよかったです。」


 途中で晃君は無事両親と再会することができた。

 私は体力の限界と浴衣が着崩れてきたので、あきらにおんぶを代わってもらう。

 あきらも肩車の後のおんぶでヨロヨロしてるけど、弱音は吐かない。


 ようやく砂漠のオアシス、じゃない迷子案内所に到着する。

 一組の男女がユカちゃんに駆け寄る。


「由佳ちゃん、心配したのよ!」


「よかった、見つかったか!」


 水川夫妻、またですか………。

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