第50話 新入部員佐々木勇一の野望

「荒木、今年は一年生、結局何人入部した?」


「九人だよ。」


「じゃあ、あと三枚か。よかった…。」


「何の話だ?」


「レースのハンカチだよ。受験のお守りとか、合格祝いとかで、もう一年生に六枚作って渡してるんだ。」


「ハンカチのこと知らないやつにもあげるのか?驚かないか?」


「でも、仲間外れみたいにしたら嫌だろ。いるかどうか聞いてからにするけど。」


 K高校卓球部では、今のところ三年生全員と、新一年生六人にレースのハンカチが行き渡っている。



「……というわけで、一年生でハンカチがいるやつは言ってくれ。」


「何すか、それ…。」


 ハンカチの存在を知らない勇一を含む三人が、きょとんとした顔で聞く。

 すでにもらった六人が、ポケットから出して自慢気に見せる。


「金城先輩が作ったんだぞ、すごいだろう!」


「いいだろう。これを作るのにかかった、先輩の時間をもらったも同然なんだ。」


「これを作っている間、僕のことを『合格おめでとう』って考えていてくれたってことだよ。」


 何も考えてないよ。ただ、夕食後のくつろぎのひと時だよ。


「せっかくなので、お願いします。」


「ボクも。出来たら、白のレース糸でお願いできますか。」


「お前、ハイセンスだな。」


「いえ、レース糸目立たない方が……。」


「勇一は何色にするの?」


「オレは要りません。」


「えっ?」


 場がシーンと静まり返る。勇一はまっすぐに僕の目を見る。


「オレはもらう側じゃなくて、金城先輩のように、作って、それを欲しがってもらう側になりたいんです。だから要りません。」


 おおーという声が、あちこちからあがる。

 勇一、見どころのあるやつだな。断られたのに嬉しくなった。

 僕は勇一に微笑む。


「そうか、勇一は要らないんだな。わかったよ。」


「はい。」


「先輩、でも、二年の俺達も欲しいっす。」


「二年生はどうしてもらえないんですか。」


「一年だけずるいぞ!俺たちを差し置いて!」


「先輩が先だろ!」


「………わかったよ。二年生の分も作るから。(当分夕食後のひと時は、レース編みだな。)」



 その日の帰り道――


「優斗、翔太、やっぱりオレもハンカチ欲しい……。」


「もうかよ!早いなあ。」


「やっぱり、はダメだろ、勇一。自分で作れば?」


「金城先輩が作ったってとこに意味があるのに。バカバカ、何であんなこと言っちゃったんだろう。それにオレ、レース編みなんかできないよ。」


「しょうがないなあ、作り方、姉ちゃんに聞いてやるよ。」


「マジ?頼むよ優斗、頑張って覚えるから。」


 そんなことより、卓球頑張ってほしいよ(優斗、翔太心の声)。

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