第43話 高3 四月 出会いは一瞬
「あなたもこの駅で降りるんでしょう?」
満員電車の奥の方で、身動きできない僕の腕をつかんで引っ張り下ろしてくれたのは同じ高校の制服を着た女子。肩につくくらいの髪と、僕と同じくらいの身長で、そんなに美人でもないけど、慣れた感じからすると先輩だろう。のんびりした人の好さそうな顔で、ちょっと笑う笑顔が可愛い。
「ありがとうございます、電車通学、まだ慣れてなくて。」
「一年生の初めはしょうがないよ。この扉が改札に近いけど、慣れるまでは一番前の車両に乗った方が
そういうと、さっと身を
また会えるといいな、あの先輩に……。
「なあ、加藤、聞いてる?ぼんやりしてどうしたんだよ。」
「聞いてるよ。部活の見学だろ。野田はどの部活を見学したいの?」
「俺さ、高校では和太鼓とか、弓道とかやってみたいんだよな。一緒に行かねえ?」
「おもしろそうだな。僕も付き合うよ。」
弓道場は学校の敷地の隅っこの人通りのないところにあった。高めの生垣から道場を見ると、弓を引いている先輩が見える。
「おお、凛々しくてかっこいいな。」
「うん、ちょっとやってみたいかも。」
あ、電車から引っ張り下ろしてくれた先輩だ!弓道部だったんだ。この出会いは運命ってやつか。僕と野田が見ていると、弓道着を着た男子の先輩達が話しかけてくる。
「弓道に興味ある?」
「はい、高校では弓道部に入ろうと思ってました。加藤拓也といいます。よろしくお願いします。」
びっくりする野田をしり目に、僕は迷わず答えた。
「先輩、前から二番目で弓を引いてる先輩ってなんて名前ですか?」
「ああ、友香ちゃん?一色友香って名前だよ。知り合い?」
「ちょっと困ってるところを、助けてもらいました。優しくて、可愛らしい人ですね。」
「…………。(こいつ、視力悪いのかな。まあ、弓道は視力悪くても、メガネしてても関係ないけど。けんちゃん、心の声)」
「…………。(蓼食う虫も好き好きってことわざ、こういう時に使うんだな。甲斐君、心の声。)」
僕は、こうしてまんまと友香先輩の後輩になることに成功した。
こんなに上手くいくなんて、幸先いいぞ。
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