第44話 けんちゃん部長の心配事

「私のことは、キャサリンって呼んでください。」


「キャサリンはハーフか何かなの?」


「いいえ、けんちゃん先輩、私、どこまで先祖をさかのぼっても日本人です。名前はユカなんですけど、友香先輩がみえるので、後から入った私が何とかするべきだと思って、好きな小説から名前を借りました。」


「じゃあ、私はマユだから、マーガレットって呼んでもらいたいです。」


「マユって名前はいないけど。」


「だって、マーガレットの方が、かっこいいじゃないですか。」


 マジか……。今年の新入部員は人数も多いし、個性が強めなやつが多いな。部長として頑張らないと。

 弓道部は男子と女子が分かれているところもあるだろうが、うちは一緒だ。弓道場は他の部活が使わない代わりに、そんなに広くもない。

 男子と女子の差は、弓の強さ(弓は一張ひとはり一張、強さが違う。)くらいしかない。

 初めは弱い力で引ける弓を使って、段々強い弓にあげていく。弓の強さが決まったところで、買いたい人は個人の弓を買うが、高校生は学校の弓を使うことが多い。

 ちなみに、矢は矢塚(体の中心から左手を真横に伸ばした指先まで。矢はさらに五センチ位長い。)の長さが同じならどれでも使えるが、大抵は自分の矢しか使わない。破損することはめったにないが、羽が傷むことがあるし、なんとなく自分のものでないとって感じがする。だから個人持ちになる。


 さらに、部活の態度は文句のつけようがない真面目な一年男子が、妙に友香ちゃんの周りをウロチョロしている。


「友香先輩、ちょっと手の内(弓の握り方)見てください。」

「口割(引いた時の矢の位置がちょうど唇を合わせた線に重なること)ってこれくらいですか?友香先輩。」

「打ち起こし(弓を上に持ち上げる動作)た時の肩って、こんな感じでいいですか。」


 ボクがそばを通っても何も聞かないのに、加藤君は……。金城君のことを知らなければ気にすることはないけど…うーん、他人が口を出すのも……。


「けんちゃん、加藤のやつ、いいの?」


「友香ちゃん、全然気が付いてないよね。どうしよう、一応加藤君には友香ちゃんには、彼氏がいるって部活の後で言っとくから、甲斐君が金城君にそれとないラインをしといてよ。」


「了解。」




「話って何ですか、けんちゃん先輩。」


「部活のことじゃないんだけど、あのね、」


「じゃあ、帰っていいですか。友香先輩と一緒に帰りたいんですけど。」


「加藤君、実は友香ちゃんには彼氏がいるんだよ。」


 加藤君はちょっとひるんだようだが、すぐに態勢を立て直してきた。


「それって、けんちゃん先輩とか、弓道部の男子の先輩ですか?」


「違うけど。」


「じゃあ、別にいいじゃないですか。カップルが別れることなんてよくあることだし、僕は友香先輩に彼がいてもいいんです。部活には迷惑かけませんから。」


「そこまで言うならもう何も言わないよ。ただ、知ってたのに教えてくれなかったとか言われるとさ。」


「ご忠告有難うございます。」


 ピシャリと言われた。

 なんとなく、加藤君って金城君に感じが似てるなあ。なんで友香ちゃんのこと好きな人って(二人しかいないけど)マニアックなイケメンタイプなんだろう。加藤君ならもっと可愛い女の子でも彼女にできるのに。

 べつに、友香ちゃんが可愛くないとは言わないけど、彼女はごく普通の容姿だ。彼女のことをよくわかってる人なら好意を持つこともあるだろう。

 なのに、新入りの加藤君は、どうかしているのか、見る目があるのか、短期間で友香ちゃんに好意を持つとはとにかく並みの高校一年生ではない。

 加藤君は友香ちゃんと登下校の道が同じらしく、友香ちゃんを追いかけてダッシュしていった。


 甲斐君から金城君へライン

『金城君、突然だけど新入部員の一年男子が、一色のこと気に入って周りをうろちょろしてるよ。一色は気が付いてないみたい。けんちゃんが心配して忠告したけど、諦めないんだって。一応知らせとくわ。』

『ありがとう、甲斐君。けんちゃんにもお礼言っといて。』


 ふうん、友香の周りに一年男子がうろちょろ?それが?

 そんなことくらいて僕が慌てるとでも?

 おっと、ちょっとだけ口元が歪んだか。


『そいつ、真面目なイケメンで通学の道順が同じらしくて、電車も行き帰り一緒に乗ってるってさ。』


 そう、場合によっては谷底に突き落としてコンクリートで埋めてやらなくちゃね。

 まあ、その上に築城するまでもないだろうけど……。

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