第41話 小話 君を帰したくないって言え!ラスボスは私

「一体これは何の真似かしら、武田さん。」


「あら、南村さんどうやって入ってきたの?鍵掛けといたのに。」


 ここは和くんの下宿。私は三日前にもらったばっかりの合鍵を見せて、武田さんをにらむ。武田さんの下では、和くんが壁ドン変格活用、床ドンをされている。今日、チョコレートを渡す約束をしておいて大正解だったわ。


「助けて、百合。」


 押し倒されている和くん、髪が乱れて襲われてる感満載でいい眺めだわ。

 武田さんとは同じ学部だけど、彼女は確か合気道の有段者のはず。和くん、ちょっと絞められてる?


【そんなことより、どうする?私(ブラックリリー)かダークリリーが出ようか?】


 ふん、武田さんなんて、百合が一言で谷底に沈めて、上からコンクリートで埋めて、その上に築城して、その城に住んでやるわ。見てなさい。

 ふふんと言った感じで、余裕な私を武田さんがいぶかしげに見る。


「いいのかしら、武田さん。同じ学部の大野君があなたのこと狙ってるのに。」


「えっ……。何で大野君が!?私を?」


「あら、その噂、本人は知らなかったのかしら。噂にうとい私が知ってるくらいだから、みんな知ってるかと思っていたわ。」


 大野君は確実に和くんよりイケメンで、その上家が金持ちなのか、オシャレ好きな人しか知らないようなブランドの服をいつも着ている。もてすぎて、ちょくちょく彼女が替わっているが悪い人ではなさそうな人だ。


「和くんにちょっかい出したの、大野君にばらされたくなかったら今すぐ帰って。」


「ごめんなさい、冗談だったのよ。今、帰るから。」


 あっという間に武田さんは帰って行った。あっけないわね。


「ありがと、百合。助かったよ。百合かと思ってドアを開けたら武田さんでさ。ぎっちりつかまれてて、もうどうなることかと……。大野が狙ってくれて、助かったよ。」


「うーん、でもそれ、あくまでも噂だから、本当かわからないけど。」


「……。武田さんのあの行動力なら上手くいくよ。」



 チョコレートのお礼にって、和くんがちょっと早い夕ご飯をごちそうしてくれた。チャーハンと中華スープ。この中華スープの素、私が使ってるのと同じで、当然同じ味だわ。おいしい。


「ごちそうさま、そろそろ帰ろうかな。」


「送ってこうか?」


 帰るなよとか、泊っていけよとかまだ言ってくれないんだ。よーし。


「和くん、子ヤギちゃんは可愛くて美味しそうだから、よく確かめてドアを開けないとオオカミが入ってきて食べられちゃうからね。武田さん、噂が違ってたって知ったら、また来るかもよ。」


 私がにっこり笑って言うと、和くんの顔がこわばる。


 さあ、言いなさいよ、君を帰したくないって!!


【とうとう正体を現したわね、百合。怖いわー。】


【【ラスボスは百合だわね。】】






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