第40話 聖戦バレンタイン②
「あきら、片平さんもう帰った?」
金城家のお通夜が執り行われているさなかに、友香がひょっこり戻ってきた。
なにか目配せしているので、飛んできた両親を
「ちょっと友香に謝ってくるから。」
と僕の部屋に引っ張り込む。
「友香、どうしちゃったの?ごめん、片平さんのこと、ちゃんと断るから。」
切羽詰まった僕に彼女はのんびりと答える。
「いいって、あれくらい自分で何とか出来るから。今日のやり方、私がよくなかったわ。あの人があんなに鈍感だとは思わなかった。自分が場違いだって思い知らせてやりたかったのに、あきらの御両親に心配かけちゃったかな。」
「とっても心配してたよ。今までお通夜だったんだから。」
「えっ、それは謝らないと。あきらが私を慰めてくれたことにして、夕ご飯も食べてっていい?」
「頼みたいくらいだよ。」
「心配かけてすみませんでした。あきら君が慰めてくれて、元気出ました。」
「帰ってきてくれたのね。」
「片平さんの方が美人でも私たちは友香さんの味方だよ。」
父さんが何気に失礼なことを言ったが、家出をした娘が帰宅したかのように喜んだ両親は、僕を置き去りにしたまま、友香と食卓にスキップしていった。
「この粕汁、とっても美味しいですね。うちとは酒粕が違うのかなあ。」
「わかる?ちょっと遠いけど、美味しい店にわざわざ買いに行くのよ。たくさん食べてね。」
相変わらず友香の賛辞は、ずれているようで母さんのど真ん中を射抜いている。
「ご飯は少しでいいから、自分でよそいます。おかずが食べられなくなっちゃいますから。こんなにおかずが美味しいのに、ご飯食べてる場合じゃないですから。」
「まあ。」
僕はおかずちょっとでご飯ガッツリ食べるタイプだし、確か友香もそうだと思ってたけど。
父さんのこんなに緩んでる顔、初めて見たな。
「友香さん、クイズミラクル12見ていくかい。」
「はい、新クイズが面白いですね。あきら君、緑茶のお代わり、いる?」
「下さい。」
お通夜から一気に幸せ家族だよ。
友香は残った粕汁や、牛肉のアスパラ巻きなどをタッパーウェアに詰め、ほとんどだれも食べなかった片平さんのフォンダンショコラを根こそぎ持って帰った。
あのフォンダンショコラ、どうしたのかな。
二日後に電話した。
「チーズケーキ、とっても美味しかったよ。そういえばあのフォンダンショコラ、どうした?」
「優斗に持たせてクラスの男子に全部配らせたよ。もしかして、食べたかったの?」
「滅相もございません。」
「私だって、あれくらい作れるんだから。ウエッジウッドだって知ってたけど、ブランドに詳しい高校生ってかわいげがないと思ってだまってたのよっ!」
「負けず嫌いだね。そういうところもかわいいよ。」
「はい、おやすみなさい。」
友香、照れてるな。
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