第38話 射初式
「金城君、あけましておめでとう。今年もよろしくね。神社で会うなんて、縁結びの神様のおかげかしら。」
「片平さん、おめでとう。初詣だから、みんな神社に来るよ。」
「あの、この後一緒に、」
「あきらー、お待たせ。」
「友香お疲れ様、かっこよかったよ。他の弓道部の人も。」
「あら、片平さん、あけましておめでとう。その着物、素敵ね。あなたも
「は?」
「今日、この神社で弓道部の射初式っていうか、非常に簡単に説明すると書き初めの弓道バージョンをやったのよ。間に合わなかったの?残念ね。」
「一色さんが弓を引くところを観たかったわ。弓道着、とってもお似合いよ。(ふん、ノーメイクの弓道着、足袋、スニーカーで弓矢装備の女が、フルメイク、着物の私に勝てるのかしら。初詣の人がチラチラ見ていくのはあなたじゃなくて私よ!)」
「あきら、この後社務所でお汁粉ごちそうになるから、一緒に来ない?」
「いいの?」
「うん。片平さんはその着物でお汁粉なんて食べられないでしょ。汚すといけないし。じゃあね。」
「え、ええ。(またいいようにあしらわれたわ。ちゃんと準備しないとだめだわ、これ。)」
社務所の奥の台所で、弓道部にまぜてもらってお汁粉を頂く。この弓道部二年生メンバー、みんな穏やかでいい人たちばかりだな。僕は花火大会で知り合った、甲斐君とけんちゃんとはいつの間にか友達になっていた。
「甲斐君、今日の射初式って、一回一回座ったり立ったりして、いつもより物々しい感じだったね。」
「座射って言って、段審査とか、改まった時はこっちのやり方なんだよ。」
「高段位の師範がやる、射手一人に介添えが二人もついて、着物の片肌脱いでやる矢渡しっていうのは、もっと物々しいよ。ボク、実際には一回しか見たことないけど、いつかやってみたいな。」
けんちゃんが矢渡しについて説明してくれて、男子は真面目に弓道の話をしているのに、女子はなんだか楽しそうな話をしている。
「友香が彼女って、見る目あるわね、金城君。」
「やだ、ミカリンったら。」
「そうそう、友香より顔がいいだけの女ならいっぱいいるのにね。」
「ちょっとエミ、それどういうこと?」
「さっき金城君がしゃべってた着物の女の子なんて、超女子力高そうだったじゃない。」
「トモ、それ以上言うと許さないから。」
「まあまあ、でも友香、うかうかしてると取られちゃうかもしれないから気を付けなよ。」
「マ-ド-カー。取られたアンタに言われたくないわー。」
「ちょっと、それは言わない約束でしょ。」
帰り道、友香は僕とつないだ手を、自分のウインドブレーカーのポケットに突っ込んだ。
片平さんが絡むと、スキンシップが増えるようだ。彼女には現れて欲しくないが、いいこともあるなあ。
「私だって、着物着たらかわいいんだから。」
「そうだろうね。弓道着でこれだけ素敵なんだから、着物着たらとってもかわいくなるよ。でも、僕はこっちの友香の方が好きかも。」
友香がつないだ僕の手をぎゅっと握る。
縁結びの神様、今年もよろしくお願いします。
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