第35話 守れるかわからない約束
「えっ和兄、百合さんと付き合ってないの?お互い好きだと思ってたわ。あんな助け舟出しといて。」
「付き合うだけなら、上手くいってたかもしれないけど、結婚とか名字変えるとかいわれるとちょっと…。」
「何が問題なの?私、名字変えるの平気だよ。たまたま先祖が一色だっただけじゃん。大切なのは名前だよ。」
「お前は女だから――。」
「あっ古っる-い。どっちの姓でもいいんだよ。ねぇあきら、私が困ってたら一色になってくれるよね。」
「もちろんだよ。」
姑息だな、金城君。一人っ子のくせに。俺と優斗がいるからって、安心して言ってるな。
二人は冬休みの宿題をうちのリビングでやっている。
「百合さんが親に困ってるから、そんなことになっちゃっただけだよ。和兄が南村になれば、全てが簡単に解決するって。私、和兄が高校のとき付き合ってた彼女より、百合さんの方が気が合いそうだしさ。百合さんにしときなよ。」
「南村になって、上手くいかなかったらどうするんだよ。」
「それはまあ、その時考えれば。」
でも、友香の言う事にも一理あるか。
「金城君、ちょっといいかい。君は名字を変えてでも、友香を手に入れたいってことだね。」
「はい。僕も名字はこだわらないです。どうせ、先祖が明治維新の時に大急ぎで付けたんだろうし。名前は親が考えてくれたんで大切ですけど。」
今ってそうなのか、俺の頭が固いのか。南村になって彼女と付き合ってもいいのか。まだ21歳なのに、大学三年生なのに、そんな守れるかどうかわからない約束をしないといけないのか。
「あっ、もうそろそろ予備校行こうか、友香。」
「二人とも同じ予備校行ってるの?」
「うん、夏頃から。和兄が行ってたビデオでの講義のとこだから、時間を合わせたら一緒に行き帰りできるんだ。」
「ああ、そうだったね。」
「和兄はいつまでいるの?お正月過ぎまで?」
「正月は友達とスノボに行くから、明日下宿にもどるよ。」
明日戻るのがよかったのかどうか、この時の俺には何もわかっていなかった。
結果的には、良かったんだろうけど、まさかあんなことが待ち構えていようとは……。
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