第34話 レースのハンカチをあなたに
(何これ、生肉?友香が矢で仕留めた何かの動物の…。)
クリスマスプレゼントに友香からもらったのは、デロンとしたえんじ色のミトン。
彼女からもらったものでなければ、願い下げしたいシロモノだ。えんじ色って言わなきゃ、まだましだったかもしれない。だけど、この出来からすると、手伝ってもらうことなく、ちゃんと自分で編んだのだろう。
姑息なことをしてはいけないときには、正々堂々とすることを弓道から学んだのか…。うれしい。
僕がじわじわと喜んでいる前で、彼女は僕のプレゼントしたレースのハンカチにテンションを上げている。
「何これ!すごい!縁取りがきれいだね。ガーゼで使いやすそうだし。これだけの時間を私のために使ってくれたんだ。うれしい、ありがとう。」
「それをいうなら、友香だって随分頑張ってくれたみたいじゃないか。そんなに喜んでくれるなら、何枚だって作るよ。」
このハンカチには、後日談がいくつかあるが、とりあえず三つ。
後日談その①
「あきら、あのハンカチ家族に見せたの。そしたら優斗が志望校の現役生作で縁起がいいとかで、受験のお守りに欲しいっていうから青い方あげたのよ。でね、友達も欲しがってるから、もう一枚もらえないかって。」
「翔太の分だろ、いいよ。」
自分用に持っていた緑の縁取りのハンカチを渡した。
後日談その②
いい気になって、水色のレース糸を買ってきて夕食後のくつろぎのひと時、リビングで編む。
「啓、最近ずっと編んでるけど、何枚作ってるんだ?友香さんにあげるだけじゃないのか?」
「なんか評判良くって、後輩にもあげてるんだ。」
「後輩にも慕われてるのね。よかったわね、啓。母さんうれしいわ。」
レース編みしてるだけで、家族団らんだった。
後日談その③
学校で弁当の前に手を洗って、例のハンカチで手を拭いていると、荒木が声を掛けてくる。
「あっ金城、ハンカチ貸して。」
「ほい。」
「わっ何だこれ、彼女作の自慢か?」
「違う。自分でつくったんだよ。」
「マジか、いいなこれ。」
「じゃあそれやるよ。まだ何枚もあるから。」
こうしてK高校卓球部(入部予定者含む)に、レースで縁取りしたハンカチが浸透していくことになる…。
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