第32話 クリスマスはあなたと

「私が矢で仕留めたイノシシだよ。はい、あきらにクリスマスプレゼント。」


 そんなわけにいくかー!もらった方も困るだろうし。

 だいたい、弓って、そんなに殺傷能力高くないんだよね。時代劇で、矢が一本刺さっただけで倒れてるの、あれはないと思うんだけど。よっぽど中るところがピンポイントで致命的なところじゃないと。足を止めるとか、攻撃する気をなくさせるくらいじゃないのかな。

 弓道では、人に刺さらないように、ものすごく厳しい約束というか、矢を安土に取りに行くルールが決まっている。これをうっかりしようものなら、かなりがっちりとお叱りがある。先輩も、過去にうちの高校で人に刺さったという話は聞いたことがないって言ってたけど。

 現在、矢で動物を仕留めている日本人はいるのかな。


 どうしてこんなことを考えているかというと、あきらへのクリスマスプレゼントを、私の得意なことでなんとかならないかと考えていたのだ。

 買うのもいいけど…。手作り…。マフラーとかセーターなんてとても無理。九割がたお母さんに編んでもらうとか…。姑息の前に、あきらにバレるし、そんなのプレゼントしても意味はないな。五本指の手袋は私には無理だけど、ミトンくらいならいけるかな。


 色々考えている私の前ではあきらが美味しそうにパンケーキを食べている。あきらと初めて会ったのは、青木君と三人でパンケーキ食べた時だったっけ。


「そういえば青木君、元気?」


「さぁ、今クラス違うから…。でも、文化祭で後姿だけクラスの劇に出ていたよ。」


「は?後姿だけ?その他大勢の役とかで?」


 青木君は、顔は十人並みだが、背が高く、手足もすらりとしていてモデルのような体型の、後姿美男子だ。


「ヒロインの相手役だったけど、ホントに顔が見えなかったよ。演出の河合さんって演劇部部長が、絶対に顔を見せるなって厳しく言い過ぎて、青木のやつ、半泣きだったって噂も聞いたな。でも、顔が見えそうで見えないのが余計いいって、クラスの女子は言ってたっけ。一年生の女子が劇の後で、青木目当てでクラスの近くをうろついたけど、本人に気づかなかったってさ。」


「へーそうなの。」


「友香、何考えてるの?」


「えっ、考え事してるの、わかる?」


「わかるよ。(食べる速度がとっても遅くなるからね。)」


「クリスマスプレゼント、どうしようかと思って。」


「友香がくれるなら、何でも嬉しいよ。たとえ軍手でも雑巾でも。」


 あきら、エスパーなの?軍手とミトン、近いよ。


「軍手か雑巾が欲しいの?」


「別に、間に合ってるから。例えだよ。」


「ちょっと聞くけど、何色が好き?」


「えんじ色。」


「えんじ色?そう、聞いてよかったわ。」


 あきらがお皿の端によけておいたサクランボを、くすねて食べる。眼鏡の奥の目がフッと笑う。怒らないんだなー。へへっ。


「えんじ色の毛糸で、何を編んでくれるの?」


「は?何でわかるの?」


「友香のことなら結構わかるようになってきたよ。」


「えー、照れるなあ。」


「パンケーキ、僕のも食べなよ。」


 パンケーキ狙ってたこともわかるの?やっぱりあきら、エスパーなの?なんか幸せ過ぎて怖い。
















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