第31話 ついてない、けど記念日

 今日はとことんついてなかった。

 英語で予習が切れたところを先生にあてられて、大ピンチで大汗かいた。

 お弁当は袋の外まで汁がしみてて、カバンの外までおかずの匂いがただよい、男子に『一色からおいしそうな匂いがする。』ってからかわれた。

 部活で使う足袋たびが、両方とも右足用で、後輩にも爆笑された。

 さらに、初めて追い矢までしてしまった。(追い矢は、先に引いた矢に、後から引いた矢が中ってしまう事。たいてい矢が破損する。)

 水川先輩が一回やったのを見たことがあるけど、けっこうなレアケースだし、私のは先輩と違って、的に中った矢じゃなくて、安土にささってる矢にやらかしたのだ。ショックは大きい。

 甲斐君が矢筈やはず(矢をつるにひっかける溝のところ)を見てくれたら、幸い修理可能で助かったけど。

 けんちゃんが『はずを破損するなんて、そんな筈は……。』とだじゃれを言っていたが、だれも笑わなかった。

 私はダジャレが大好きなので、けっこうおもしろかったし、救われた。


「友香、帰りにみんなでアイス食べてかない?」


「ミカリンごめん、今財布が大ピンチなの。」


 ついてないよう、明日お小遣いもらえるのに。もう、まっすぐ帰って夕ご飯食べてさっさと寝よう。

 ギリギリで電車に乗れず、やっと次に来た電車に乗る。

 ラッキー、座れた!疲れてて、ウトウトしたけど、すぐに目は覚めた。

 よし、降りよう……。ってここどこ。ギャー、降りる駅一つ過ぎてる!

 知らない景色を茫然自失で眺める。


「今日は物忌ものいみ(平安貴族とかの、運が悪いから外出してはいけないと占われた日)だったんだ。方違かたたがえ(ラッキーな方角にわざわざ行くこと)してるんだ、私。」


 自分で自分を慰める。途中の二つある交差点の信号はもちろん赤になったばかり。でももう、そんなの些細ささいなこと。

 やっと家にたどり着く。


「あら、友香おかえり。さっきまで、金城君待ってたのに。」


 私は玄関でスニーカーを脱ぐと、倒れた。泣ける。

 ラインしてよ、あきら。いつも面倒がってた私が悪いか…。


「修学旅行のお土産だって。はい、これ。」


「何これ、しゃもじ?」


「しゃもじって、広島の名産品よ。」


 私はしゃもじを握りしめる。

 あきら、どういうつもりでしゃもじなんて選んでるのよ!ペアのしゃもじなの?!

 それとも広島じゃ、好きですとか、結婚してくださいって告白する時、しゃもじ送るわけ?!わあーん。


 しかし、しゃもじに罪はない。声を聞きたいし、もしかしたらなにか深い意味がしゃもじにあるかもしれないから、あきらに電話する。


「あっあきら、修学旅行楽しかった?しゃもじありがとね。あれって、なにか深い意味あるの?」

「あっ、うーん、(深い意味って…。特にこれってものが見当たらなくて、名産品を買っただけだけど、そう言ったら不正解なのか?)ああ、僕も君と結婚する気になったというか、その、将来一緒に使えるといいかなって思ったんだよ、うん。感じのいいしゃもじだったからさ。あはは。(感じのいいしゃもじって何だよ。)」

「うわーーん!嬉しい。大事にするね。今日はしゃもじ記念日だよう。」

「ちょっと友香、泣いてるの?そんなに喜んでもらえてよかったよ。(答えが正解みたいでよかった。夫婦茶碗の返事もできたし。はーやれやれ。)」


 ああ、今日もいい一日だったわ。おやすみなさい。
















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